寝子街闘者　晩夏の陣｜リアクション

寝子街闘者　晩夏の陣

『寝子街闘者　晩夏の陣』オフショット

　――寝子街闘者　晩夏の陣。

　『寝子街闘者』シリーズの最新作で、若い刑事とヤクザに焦点を当てた物語である。そして、その２人に関係するミステリアスな女性の動きもファンに期待されていた。

「……なんでバニーガールなの……」
　青山絢は台本を読み、準備された衣装を見ながらため息を付いた。
（何故か、色々とバニーガールに縁がある気がするのよね……）
　しかし、今回はなかなかハードな役どころである。『復讐に燃える暗殺者』と聞き、絢は思わず背筋を伸ばしたぐらいだ。新人女優にとって試練と言えるだろう。
「それでも、頑張らなくちゃね」
　台本を手に気合を入れていると、後ろの方から声がした。
「俺……だ、代役だったんだけどー！！　いきなり主演とか……！！」
「もー！　落ち着いてよもっちー！」
　台本を手に頭を抱える宇佐見望月は、志波武道に窘められていた。望月は「俺ぜんっぜん演技した事ないんだけどっつかまたたびフェスでも裏方だったんだけど」と頭を抱えているが、武道は「まーまー、とりあえず早速台本読んでみよーぜ！」と望月の腕を引っ張っていく。
「今回は３人ともアクションがあるから、そっちの指導もあるよ」
　と監督が言えば
「お任せでっすこう見えて俺たちバリバリ体育系なんですよー」
　HAHAHA★　と爽やかに笑う武道。望月もまた「そういうのは任せてください！」と胸をぽん、と叩く。
「アクション……で、できるかしら……」
　一方の絢は、ちょっと緊張の度合いが増した。だが、これもステップアップに繋がる、と思えばやる気が増す。
「皆、緊張しているのかい？　肩の力をぬいて欲しい」
　ひょっこりと監督の難波さんが現れると、皆で頭を下げる。どこか飄々とした小柄な老人は、三人に「よろしくね。期待してるよ」とにこやかな笑みを見せる。
「ひゃー！　道に迷って遅れちゃったー！！」
　とそこに駆け込んできたのは、野々ののこ。彼女はあほ毛をぴょこぴょこ揺らし監督たちに挨拶する。
「うんうん、君もげんきでいいね。よろしくたのむよー」
　難波さんは、すっごくおおらかな人だった。

　望月は、監督から役柄について話を聞き「おお、おおーっ！」と興奮しているようだ。
「へぇ、警察なんだけどスッゲェ悪者なんですね！　じゃあ、姪っ子にまとわりつく野郎みたいに思って武道ちゃんに話せば良いんすね？」
　わっかりました！　と明るく返事する望月に、難波さんは「元気があっていいな」と笑う。
　そして絢はミステリアスな復讐者、ののこは元気な看板娘を演じることに。脚本を渡されののこは大興奮だ。
「絢ちゃんもアクションするんだよね！　いいなぁ！　かっこいいなあ！」
「初めてだから、うまくできるか緊張するわ……」
　絢がドキドキしていると、難波さんがにっかり笑う。
「大丈夫。ちゃんと指導するからね。あぁ、あっちの体育科のお兄さん達を見ているとヒントが掴めるかもしれないよ」
　がんばっていこう、と難波さんは絢にも笑いかけたのだった。

「なー、なぁーぶどーちゃん、この漢字なんて読むの？」
「そこは『暗躍』だね！　で意味は……」
「えっとー、つまりこそこそ動き回って……なんでそんなことすんだ？」
　望月は「もっちー！台本読みあわせしよーぜー！」と武道に誘われ台本の読み合わせ中。解らないところは武道に教わったり、電子辞書を使ったりして調べていた。
　途中から綾やののこも加わり、ちょっとした勉強会みたいになるのは高校時代を思い出して楽しかった。
　体を動かすアクションのシーンは、絢にはなれない事ばかり。撮影のたびに疲労困憊になるが、気合で乗り越える。
（凄い……）
　元々才があるのか、それとも体育科出身故か。武道と望月は難なくこなしていく。難波さんは、カット！　と叫びカメラを止めるとにこやかに笑った。

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