寝子島写生大会｜リアクション

寝子島写生大会

●憂鬱を忘れ去ろう

　月原想花は猫鳴館で何をするでもなく、だらんとしていた。

（寝子島へ来て２か月目。だいぶこの島にも慣れてきたかな……）

　ぼんやりと廊下を歩いていると、『寝子島写生大会』のお知らせが貼ってあった。日付を見ると今日開催らしく、想花は特にこのあと予定は無い。正確には勉強をしないといけない状況ではある。中間試験の成績が今一つで、追試を受けることが確定しているから。
　そのため正直ゲンナリしているし、色々とあって想花は気持ちが塞ぎがちになっている。

（猫鳴館でうじうじしているくらいなら、外へ出たほうがいいかな……天気もよさそうだし）

　そう思い、さっさとお気に入りのTシャツとジーンズを身にまとう。Tシャツには灰色の地に外国のトレカの獣人戦士が描かれている。野球帽を手に取ると、さっと被って部屋を出た。
　画材は持っていないので、途中の百均で鉛筆とスケッチブック、それに絵の具や筆などを購入した。

　写生大会はまたたび市動物園、九夜山頂上展望台、キャットロードの３か所から１つ選んで絵を描く。想花はその中からまたたび市動物園を選んだ。休日だからか人もそこそこいて賑わっている。

「動物の絵を描くのって好きなんだよね」

　様々な動物たちが過ごす空間を彼女は歩く。
　だらんと寝そべっていたり、木陰で眠っている動物もいれば、仲間と一緒に走り回っている動物もいて、とても自由だ。そんな彼らの姿を見ながらささっとスケッチしていく。

「どの生き物も個性的だよね。鳥やウサギといった小動物はかわいいし」

　小動物のエリアに向かう途中、ナマケモノとすれ違う。樹にぶらさがって、ものぐさにしている。説明文によると生涯のほとんどをこうして過ごすらしい。

「ぼくも勉強とかほったらかして、あんな風に過ごしたい……」

　思わず追試のことが頭によぎってため息を吐く。どうにか気持ちを切り替えて歩を進める。
　辿り着いた小動物のエリアは、ふれあい広場を中心に人が集まっていた。想花もそこへいき、ウサギたちと触れ合う。柔らかい体毛と体温を手のひらから感じる。

「やっぱり可愛いし癒されるね」

　ひとしきり満足すると、今度は猛獣エリアに向かっていく。
　ここにはライオンや豹、虎などが住んでいる。想花はそのなかに居た一匹のライオンに注目した。

「よし、あのライオンを描こう」

　しっかりと腰掛けると、スケッチブックと鉛筆を構える。そして気合を入れて鉛筆を走らせる。描いている間は鬱陶しいことは全部忘れる。写生大会の賞のことなんてどうでもいい。
　鉛筆がすごい速さで減っていき、その分だけ目の前のライオンがスケッチブックに浮かび上がる。あまりに集中していて、書き上げたときには大きく息を吸って吐いた。そうして出来た一枚を提出して、想花は猫鳴館に帰っていった。