寝子島写生大会｜リアクション

寝子島写生大会

●描くものは自由

　八神修は『寝子島写生大会』に参加していた。その隣には七夜あおいの姿もある。
　今回は絵のテーマとして、またたび市動物園、九夜山頂上展望台、キャットロードの３か所が掲げられている。

「どこに行く？」
「う～ん……」

　あおいは首をかしげて悩んでいる。
　どこも行ってみたくて、それゆえに決められない感じだ。２人で話し合って、行き先はまたたび市動物園に決めた。着いてみると、動物園はそこそこ賑わっていた。休日というのもあるが、同じ目的で来たと思われる人の姿もある。

　ひとまず何を描くかは巡りながら考えることにした。
　草食動物・鳥類エリアや猛獣エリアなどを歩き、思い思いに過ごす動物たちを眺めて雑談する。そしてふれあい広場で描くことを決めると２人は適当なところに腰を下ろした。今回は水彩画に挑戦するので、水彩絵の具や筆、布巾や水入れなどを用意する。
　まず鉛筆で下書きをして、そこに色を乗せる。とりあえず何を描くか決めたら、鉛筆を動かす。

「あおいのはどんな感じ？」
「まだ全然だけど……こんな感じ」

　見せてもらうと、柔らかいタッチで動物たちが描かれている。

「いいね。あおいらしさを感じる」
「ありがとう。修君は？」

　そう聞かれて修は自分の絵を見せる。猫が兎の柵に近づいて餌箱に手を伸ばしている様子が描かれている。

「タイトルは『こんにちにゃ』」
「ぴったりだね」

　あおいは微笑みながらそう答えた。
　それから２人は『ここの色をどうしよう』と相談しあったり、今までの写生の思い出を話しながら絵を描き進める。

「昔描いたときは『赤は赤！』って感じだったけど、赤にも色々あるんだよな」
「そうだね。夕日の赤とか綺麗で好き」
「いいよね夕日」

　そんな話をしているとお腹が空いてきたので、お弁当を食べながら休憩。天気に恵まれて、太陽の光を感じながら食事を楽しむ。そうしてのんびり過ごしたあと、再開する。
　休憩を挟んだ甲斐あってか、順調に絵が仕上がっていく。修はふと横を見る。あおいが真剣にスケッチブックとその先を交互に見ている。
　こっそりとその姿を彼は写生する。しかしふとこちらを見た彼女に気づかれてしまう。彼女は両手を前に突き出し、やんわりと否定の意思を示す。

「えー？　ダメ？　ダメなら描かないけど……？」
「ダメってわけじゃないけど……」

　あおいは目を逸らして口をとがらせている。嫌がっているというより照れているような怒り方だ。
　
「あ！　そうだ！」

　突然彼女が声をあげた。

「じゃあわたしも修君を描く！」
「え！？」
「これでおあいこ！」

　そう言って彼女は笑った。
　２人のスケッチブックには写生大会で描いた絵が１枚ずつ。そしてお互いの姿を描いた絵が１枚ずつ出来ていた。

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