せんせいといっしょ：相原先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：相原先生編

　早朝の街は静かで、空がどんどん明るくなっていく様子はとても綺麗である。どこか風も澄んでいるように思え、正也は少しだけ心が洗われていくような気分になった。
「こういう中を走るのも悪くないな」
「うん、本当にそうだな。やっぱ走るのって楽しい！」
　北斗がうんうん、と相槌を打っていると千代も同感らしく満面の笑みである。
「部活でも走るけど、それとは違うメンバーと一緒っていうのも楽しいよ。ねー♪」
「そうなのだ♪　早起きは三文の得なのだ！」
　無邪気に笑う後輩の千代と小麗に釣られ、先輩である正也と北斗も優しい笑顔になっていた。が、しかし。前方からくる影に千代の表情が固まる。
「わぁ、大きなハスキーなのだ」
「なかなか可愛い顔をしてるな」
　小麗と北斗が楽しそうに見ているその横で、僅かに千代の身がぶるり、と震える。それに正也が「……えっ？」と意外そうな顔をしたその次の瞬間、千代は回れ右をし、
「さるとびはっそぉぉおおおおっ！！」
　と、手を後ろにやって叫んでいた。途端に疾風と化す千代。彼女のろっこん『猿飛八走』はろっこん名を叫びながらこうする事で、脚力が強化されるのだ。しかし、同時にハスキー犬がそれを追いかけ、飼い主がすっころぶっ！
「だ、大丈夫ですか？！」
　慌てて引率であるまゆや救急セットを持ってきていた真央などが駆け寄り、ハスキー犬を追いかける者もいた。飼い主が苦笑しながら立ち上がる間に、千代と犬は走って行ってしまった。

　一方、こちらは自分のペースでしっかり走っていた修。彼はだいぶ体力がついてきた事を実感しつつも確実に走っていた。ちょっと先には櫻がいる。彼女との距離は精々５０ｍ程である。
（このペースなら、半分以上走れるかもしれないな）
　そんな事を考えていると前方から千代が勢いよく自分に向かって走ってくる。よく見ると後ろからリードを引きずったハスキー犬が追いかけてくるではないか！　これには櫻も緊急事態か、と表情を引き締めて戻ってくる。
「えっ？」
「いやああああああっ！　あいつら人間じゃねぇええええ！！」
　実は犬が怖い千代はいつの間にか叫んでいた。修は内心でぽん、と手を打ったが気がついたとき、彼はハスキー犬に飛びつかれて地面に倒れ、顔をぺろぺろと舐められていた。しかも勢いよく、である。
「！？　くすぐったい！　くすぐったいって……」
　しっぽをぶんぶんと振って修になつくハスキー犬の姿を追いかけてきた飼い主達は見た。そして、千代はというとガタガタ震えながら近くの建物の影から顔を覗かせていたという。
「だ、大丈夫？！」
　騒ぎを聞きつけてまゆが戻ってくるが、その光景に小さく笑いをこらえたのはここだけの話である。

　とまぁ、小さなトラブルはあったものの、概ね順調であった。
　一行は大体のメンバーが寝子島警察署前を通りすぎ、いよいよ折り返し地点の交差点へと差し掛かっていった。