【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ｜リアクション

【球技大会】思い出に残る初夏の大会へ

　体育館では最終日の最終戦が行われていた。勝利したクラスが一年の男子バスケットボールの優勝を勝ち取る。
　観客の応援も白熱して、その声は後片付けの最中の逆巻天野にも届いた。運んでいた物を抱えた状態で立ち止まり、開いた扉から中を窺う。
　マンツーマンディフェンスを崩そうと必死の形相でドリブルを試みる。固い守りに阻まれると味方に鋭いパスを出した。また、別の守備に阻まれ、こじ開けることができない。
　眺めていた天野の目が優しくなる。
　――僕も一年の時は勝敗にこだわって、あんな風に足掻いていたっけ。懐かしいな。
　今年、最後の球技大会は勝利よりも、良い思い出になることを心に決めていた。まだ終わっていないが、どうなるだろうな。
「まずは片付けだ」
　抱えていた物を引き上げて歩き出す。
「……僕も随分、変わったな」
　大人びた顔で微笑んだ。

　グラウンドの片隅に生徒達が集まる。
「アイスはまだかな」
　野々ののこは背中まである髪を振った。側には七夜あおいの姿もあった。アイスをせがむ子供を宥めるように笑って見せる。
「もうすぐだよ」
　八神修は周辺を気に掛ける。見つけた天野に向けて軽く手を挙げた。同じような動作で天野は駆け出す。
「片付けで遅くなった」
「アイスは？」
　ののこは頭頂から飛び出した毛を揺すって詰め寄る。
「担任の桐島先生に預けてあるよ。卒業した先輩達が用意してくれたアイスは大量にあるから心配はいらないよ」
「やっぱり運動のあとは甘いものだよね」
　うきうきしたののこの声に向かって夏風遥が笑顔で頷く。
「頑張ったあとにみんなでアイスを食べる！　青春ど真ん中って感じだね！」
　水色の瞳を輝かせて言った。
「遅くなった」
　スーツ姿の桐島義弘がクーラーボックスを肩に掛けて急ぎ足でやってくる。集まった人数を見ると顔を曇らせた。
　細いフレームの眼鏡の中央を上げていった。
「この人数だと足りないか……」
「え、アイスが足りない！？」
　驚いた天野は全員に目を向ける。困ったような表情を無理に笑みへと変える。
「僕なら少し出せる、と思う」
　苦し気な声に遥が反応した。即座に心で念じる。
　――桐島先生に良いことありますように。
　瞬間、『青春の閃き』のろっこんが発動した。願った対象に強運を授ける。
「あ、桐島先生、お久しぶりです！」
　青年が気さくに声を掛けてきた。褐色の肌の為、白い歯は輝いて見えた。
「上島か。喫茶店の経営はどうだ？」
「順調ですよ。今日は新作のアイスの試食をして貰おうと持ってきました」
　肩に掛けていた大型の容器に全員の目が注がれた。
「やったー！」
　ののこは無邪気に喜んだ。
「よかったね！」
　遥は掛け値なしの笑顔を見せる。
「本当に」
　天野は自身の財布の中身を目にして言った。
　間もなく全員が弾けるような笑顔でアイスを食べ始めた。二日間の球技大会の話で大いに盛り上がる。
　天野はアイスを食べながら微笑みを浮かべる。
「……今後も良い日々を、皆で送れますように」
　ふと心に思ったことを口にした。

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