寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』｜リアクション

寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』

〇赤いバラの帽子

「今日は日曜日。待ちに待った絢ちゃんとデートの日！」
　３０歳の水谷真優理は、従妹ラブを隠そうともせず言い放つ。
「もう、真優理さんったら」
　いつものこととはいえ寝子高３年の青山絢はツッコミを入れずにはいられない。
　そんなツッコミを気にせず、真優理はご機嫌で絢にデジカメを向けるのだ。
　パンフレットを広げ、絢はどこから巡ろうか迷う。
（絢ちゃん、どこへ行こうか迷ってるっぽいわね）
　察して助け舟を出そうとした真優理だが、絢はそれより先に、
「真優理さん、行きたいところある？」
　と聞いてきた。
　パンフレットを覗いて少し考えた真優理は、
「じゃ、ここへ行こう」
　と指をさした。
「星ヶ丘のロイヤルローズガーデン？　いいわね」
　早速二人は星ヶ丘へ向かった。

「綺麗ね……」
　さまざまな色のバラが満開のローズガーデン。
「あ、バラの香りが凄い、濃厚ね」
　バラの香りを嗅ぐ真優理に絢は言う。
「珍しい種類のバラもたくさんあるよね。青いバラもあるわ」
「ほんとね、凄い！」
　薔薇を背景に絢を撮りながら、真優理は頷くが。
「昔、青バラって存在しない、作れないって言われてたのよね。でも10年以上前に遺伝子組換えで作られるようになって、今では一般の圃場でも栽培できるようになった。花言葉もあるのよ、『奇跡、神の祝福、夢叶う』って」
「へえ～、絢ちゃん、意外にバラについて詳しいのね！　何故そんなことを知ってるの？」
　少し驚いた真優理に、絢は苦笑交じりに微笑む。
「意外は余計だわ。学校の生物の授業で調べたの」
　そこへ、係の人から声をかけられた。
「バラで帽子を作ってみませんか？」
「バラで帽子？」
「やってみましょうか」
　二人は説明を受け、帽子を作り始めた。
「赤いバラにしようかな……」
「私も絢ちゃんとお揃いがいいわ」
　そう言って真優理は赤いバラを手に取る。

　しばらく黙々と帽子を作り。
「初めて作ったにしては結構いい線行ってるかも」
　真優理は自画自賛する。
「作ってみたけど、ちゃんと形になってるかな……？」
　自信なさげに絢は言うが。
「上手にできてるじゃない！」
「ならいいんだけど」　
　絢は試しに自分の赤いバラの帽子を被ってみた。
「似合うわ！」
　真優理はここぞとばかりにデジカメで写しまくる。
「真優理さんもかぶったら？　写真撮ってあげる」
「そうね、それじゃお願い」
　帽子をかぶって笑顔でピースサインをした真優理を絢が撮ると。
「ちょっと待って……すみませーん、写真撮っていただけませんか？」
　真優理はあたりを見回し、近くの人に声をかけてカメラを渡すと絢の隣に並んだ。

　ひとしきり写真を撮った後、最後は薔薇の帽子を川に流す。
　ちょっともったいないわね、などと思った真優理だが。
　隣で絢が、見覚えのある透明な微笑みを浮かべているのに気づいた。
　そして絢はぽつりとつぶやいた。

「母さん、バラの花が好きだったよね。だからバラの帽子を送ってあげる」
　あの微笑み──期末テストの後、月命日にお墓参りに行った時のものと、同じに見えた。
　あの時絢は言ったのだ。
『本当は悲しいの。声をあげて泣きたいの。でも泣けないのよ……』

　あの時は代わりに号泣してしまったけれど。
　真優理は気を取り直して優しく言葉をかけた。
「次、どこへ行こうか？」
「そうだね……」

　その後二人は１日で巡れる場所全てを巡った。
　締めはシーサイドタウンの大観覧車で花で飾られた島の夜景を堪能した。