寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』｜リアクション

寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』

〇花畑スタンプラリー

　寝子高３年の宮祀智瑜は、張り切っていた。
「花と緑の博覧会ってイベントしてるって聞いたら行かないと！」
　家が八百屋でいつもお手伝いをしている智瑜は、食べられる植物にはそれなりに詳しいつもりだ。
　イベントのチラシを熟読して行き先を考えていた。
　イベント会場に向かう途中で、智瑜は一番会いたかった人の姿を発見した。
　桐島義弘先生である。
（恋する乙女は好きな人を見逃しませんよ！）

「義弘先生、おはようございます！」
　満面の笑顔で、智瑜は声をかける。
「宮祀か……おはよう」
（休日に会ってもびしっとしてますね。いつ見てもカッコいい）
　素早く桐島先生をチェックし、理想的な姿に満足する。
「花畑スタンプラリー行きませんか？」
　そして期待を込めた瞳で見つめるのである。
「な、何？」
「先生とお花畑巡りです！　イベントのチラシを見た時から気になってたんです」
「いや、私は花畑という柄ではないし……」
　先生は抵抗を見せたが。
「ダメ、ですか……？　お忙しいでしょうか」
　しょぼん、としおれた智瑜の様子に、義弘先生はあっさり白旗を上げた。
「健康のための散歩なら、いいだろう」
「はい！　健康のためにスタンプラリーに行きましょう」
　再び智瑜は笑顔を取り戻した。
　
「花畑を巡ってスタンプカードに花のスタンプを押していきます」
「けっこう歩くんだな」
「私は自転車で配達してるから足腰には自信がありますが、義弘先生は大丈夫ですか？」
「健康のための散歩だからな。これくらいは」
「お疲れなら休憩も挟みましょう。屋台で何か食べ物買って食べましょう」
「……栄養補給は必要だな」
「はい！　先生とこうして回れて嬉しいです」
　義弘先生はイカ焼きを、智瑜はフランクフルトを食べた。
「新たな発見もあって楽しいですね。花の名前とか」
「そうか」
（先生、イカお好きなんでしょうか。これも発見です）
「先生と一緒だから尚楽しいです」
「……体を動かすのは気分がいいな」

「花を持って歩いている人がいるな」
「スタンプラリーの最後にお花がもらえるみたいなので。私が先生にプレゼントします！」
「何？　いや、宮祀が取っておけばいいだろう」
「義弘先生に花言葉で気持ちを伝えたいです」
「私は花言葉は知らないぞ」
「私が教えます。お花を買う事もあるから花言葉に詳しくなったんです」
「……仏前に供える花なら私もたまには買う」
「そうなんですね。先生には『誠実』とか合いそうです」
「そ、そうか？」
「この時期だとピンクのチューリップが『誠実な愛』ですよ」
「……」
　義弘先生は、黙って缶のお茶を煽った。
　
　スタンプラリーの最後にピンクのチューリップをもらった智瑜は、嬉しそうにそれを義弘先生に差し出した。
「誠実な愛をプレゼント（ハート）」
「気持ちはありがたいが……」
　結局目をそらしたまま、義弘先生はチューリップを受け取ったのだった。　