寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』｜リアクション

寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』

〇８月までに

　寝子高１年の月守輝夜は、恋人の青木慎之介と待ち合わせして花と緑の博覧会に向かった。
「ヘイ、待たせたか？」
「ううん、今来たところ」
　幼馴染でずっと一緒にいた慎之介は、９月には海外に留学してしまうという。
　それを思えば今は、待つ時間すら楽しい。
「色んなお花が見れそうだから楽しみだな」
　浮かれる輝夜に、慎之介は尋ねる。
「まずどこに行くんだ？　ホォエア？」　
「恋人たちの丘の花壇に行ってみよう」
　その地名を告げるだけでわくわくする。

「わぁ、すごい綺麗」
「オー、ビューティホー！」
「色んな色の花が一面に咲いてて凄いね。それにいい香り」
　二人は、風に運ばれて来た甘い香りを吸い込む。
「花壇をバックに二人で写真を撮ろう。どこがいいかな」
「じゃあ、灯台が入るところにしようぜ」　
「いいけど……灯台を入れると顔が小さくなっちゃうね」
「ノープロブレム！　二枚撮ればいいのさ♪」
　写真は、近くのカップルに慎之介が声をかけて撮ってもらった。

「花を植えれるって聞いたよ。一緒に植えよう」
「グッドアイディア！」
「ねぇ、どの花にする？」
　道具を借りる場所で聞いてみることにした。
「花言葉を教えてもらえますか。それと、８月までに咲く花が良いんですけど、選んでもらえますか」
「ｗｈｙ　オーガスト？」
　係の人と共に、慎之介がけげんそうな顔になった。
「だって……」
「オーアイシー！」
　ようやく慎之介も理解したようだ。
「９月には慎之介くん留学しちゃうからその前に一緒に観たいから」
「それなら、これがいいんじゃないかな」
　係の人が選んでくれた苗には「アルストロメリア」と書かれていた。
「花言葉は『持続』『未来への憧れ』です」
「グーッド！　これにしよう」
　選んでもらった花を、輝夜と慎之介は一緒に植えた。
（綺麗に咲いてほしいね）
　そんな思いを込めて。
「また見に来ようね」
「OK！」

「次はジャンボ藤棚にも行ってみよう。アメリカじゃ見れないと思うし」
　輝夜がそう言って、二人は旧市街へ向かった。
「ここも綺麗に咲いてるね」
「イッツ　アメイジング！」
　ここでも一緒に記念写真を撮ろう、と周囲の人を探す。
　同じくらいの年頃に見える眼鏡のロングヘアの女の子を見つけた。
「写真ですか？　はい、撮りますよ」
　ベンチに腰掛けた二人の写真を撮った後、彼女は囁いた。
「そういえば、ここに座っていると、不思議な夢を見ることがあるんですよ。もし悪い夢でも、すぐ覚めますから」
「ノー、オレはグッドドリームが見たいぜ！」
　慎之介は明るく笑った。
　
「そうだね、どうせ見るなら……」　
　言いかけて輝夜は、頭上から何か降って来ていることに気づいた。
「花粉？」
　手に触れた、と思った次の瞬間、意識が飛んだ……。

　寝入ってしまった二人を見て、微笑を浮かべながら。
「良い夢を」
　と言って萌々子はその場を去るのだった。

　輝夜はいつの間にか電車に乗っていた。
　隣にいる小学生くらいの男の子が、慎之介だと気づく。
　自分も小さくなってるのだろうか、と窓に映った姿を見ようとすると。
　一面の星空に息を飲んだ。
　夜？　いや、それなら建物やネオン、景色が車窓を流れていくはずで。
「ねえ慎之介くん……私たち、どこへ行くの？」　

　そう訊いた時、景色が変わった。
　意識がはっきりしたかと思うと、頭上には藤棚があった。
「元に戻ったみたい……」
「レアリィ？」
　慎之介は元の大きさに戻って、呆然とした顔をしている。
「不思議な夢だったね」
「イエス」
　思わず同意を求めたものの。
（えっ？　私たち同じ夢を見たの？）
「慎之介くんはどんな夢？　もしかして一緒の夢？」
「そう言われても、ユーの夢を聞かないとわからないぜ」
　そこで輝夜は、自分の見た夢を説明した。
「どう？　同じ夢だった？」
「うーん……」
「どうなの？」
「……ソーリー、忘れた」
「えーっ？！　そんな！」
　結局慎之介の見た夢は教えてもらえなかった。