寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』｜リアクション

寝子島、花と緑の博覧会『フローラル＆グリーン』

〇百合迷宮、水際作戦

　恵御納夏朝と恵御納夏夜は、一緒に花と緑の博覧会を楽しむべく、シーサイドタウンの百合迷宮にやってきた。
　しかし迷宮に入る前に、ぞろぞろと集まってくる猫たちに遭遇することになった。
「ニャー」
「ゴロゴロ……」
　普段なら微笑ましい光景なのだが……
「可愛い……って、猫さんのピンチ！？」
　夏朝が顔色を変える。
　猫に合う植物も合わない植物も色々あるけれど、百合は猫に危険な植物の筆頭だ。
「花粉すら危険！　花自体に罪はないけど……猫さんが危ない！」
　頷く夏夜はクールに見えるが、
（何故猫だらけな寝子島に、百合で迷宮を作ろうとしたのか。これが分からない）
　と思いつつ。
「……というか何故近づこうとするんだ猫達は！」
　と声を上げる。
　思いは夏朝と一緒だった。
　そんな訳で、迷宮に入らず近寄らずに猫に対処する事になった。
「あそこのお店、猫さんのご飯が売ってる！」
　夏朝と夏夜は急いでにゅ～る（猫おやつ）や猫缶など、猫が喜びそうな品をこれでもかと買い込んだ。
（出費は痛いが致し方なし……詫び替わりに撫でるぞ！）
　猫達が迷宮付近に到達するより前に、迷宮周辺から離れた場所あちこちににゅ～る（猫おやつ）や猫缶を開けて皿に盛り周囲のあちこちに置く。
「猫さん、こっちだよ！　こっちに来てー！」
「ほら、こっちだ猫達！」
　とっておきの猫用おもちゃも使っておびきよせる。

　猫たちは少しずつこちらに集まってきてくれたが、さすがに二人だけで対処するには手が回らなかった。
「猫さんの数が多い……こうなったら……！」
　夏朝は買い込んだ品から何か取り出す。
「粉かつぶし＆粉またたびアターック！」
「夏朝！？　粉かつぶしまたたびはちょっと待……あーっ！？」
（粉の欠点は風で飛んでしまう事だ。風向きは……）
　ぱぁん！
　夏夜が慌てて止めるも、手遅れだった。
　開けられた粉かつぶしと粉またたびの袋から、粉は瞬く間に風に乗り広がっていく。
「風向き？　……考えてなかったー！」
　あわや、と思われたが、風は百合迷宮の中にまでは届いていなかった。
　途中で落ちた粉に猫たちは群がる。
「よ、良かった……」
　餌やまたたびに一度興味を示した猫たちは、百合のことは忘れたように帰っていった。
「これで全部……かな？」

　しばらく後の九夜山、花畑スタンプラリー会場。
「……疲れた。猫可愛いけど、疲れた」
　クールな夏夜だが、珍しく泣き言を漏らした。
「うん、ごめんね……お疲れ様、夏夜ちゃん」
　申し訳なさそうに謝る夏朝。
「いや夏朝は悪くないけど」
　まぁそんな訳で、二人はスタンプラリーに出発……せずに、付近の屋台でお茶と軽食類を買って、座れる席を確保して、夏夜は机に突っ伏している。
　のんびり過ごしようやく気力が回復してきた夏夜は、適当に手帳を取り出し６と９を描いた。
「何、それ？　夏夜ちゃん」
「何となくだよ。何故この２つが出たのが自分でもわからない」
　そう言いながら自分で書いた数字を見直す。
「勾玉みたいだよね。きっと魔除けになるだろう」
「６と９……確かに勾玉みたいだよね。屋台に勾玉の首飾りとかあるかな？」
　そう言った夏朝は、自分の猫さん手帳を出して、何か描き始めた。
「夏朝？」
「僕も６と９を描いて……さらに描き足し！」
　何やら、足された数字が別のものに変わって見える。
「〇の部分にお耳とお顔とひげと手足を足したら……可愛い猫さん！」
「数字も猫になる……か。ふふ、夏朝らしい」