勿忘草奇譚｜リアクション

勿忘草奇譚

「おやおや、これはまた……大きな建物だ。西洋のものかな？」
　
　寝子島高校をじっと見つめる男性の姿に、校内の廊下を歩いていた２年生の水上桜と同じく２年生の三条神無が気づいた。
　男性は顎に手を当てながら、なにやらぶつぶつと呟いているようだ。

「ねぇ、あの人……」
　神無は桜に耳打ちをする。
「えぇ……なんか怪しいわよね」
　男性から目を離さず、桜は答えた。

「ちょっと声かけてみよう。ただ迷っただけかもしれないし」
　桜は神無を連れて外に出た。

「あの……なにか学校にご用ですか？」
　恐る恐る男性に声をかける桜。

　男性は彼女の声に振り向くと、問いかけた。
「ここは『学校』なのかい？」

「え？　そう、ですけど……」
　男性の言葉に違和感を覚えつつも桜は返答した。

「ということは、お嬢さんたちは生徒さんかな？」
「あ、はい……水上　桜と言います」
「三条　神無です」

「あの、あなたは……？」
　桜は男性に名前を聞くと、彼は微笑んだ。
「私のことはシュウと呼んでくれ」
　
「ところで、ここはどこかな？　学校と言っていたけど、私は西洋に旅に来た夢でも見ているのかな？」

　その発言といい、和服姿といい、もしかして過去から来た人なのでは……と２人は思った。

「あの、ここは日本です。なにかお困りのようなので、よかったら少し私に占わせていただけませんか？」
　そう提案した神無に、男性は「占い？」と不思議そうにしつつ、興味があるようだった。

　神無はタロットを出すと占いを始めた。
「……太陽の逆位置。シュウさんには『活力が足りていない』と解釈できます」

　それを聞いた男性が苦笑した。
「当たらずとも遠からず、といったところかな。
　　占いというものはそんなことがわかるんだね」

「活力が足りていないとのことなので、よかったらこれから銭湯にでも行きませんか？」
　神無が男性に提案する。

「銭湯か。それはいい提案だね」
　その言葉を聞き、ほっとした表情をする桜と神無。

　３人は近くにある銭湯『杜の湯』へと向かった。

　温泉に着くと、男性は男湯へ、桜と神無は女湯へ入っていく。
　今は特設の露天風呂があり、男湯と女湯で別れてはいるが、隣同士なので声は聞こえるようになっている。

「シュウさん、お湯加減はどうですか？」
　神無が男性に問いかける。
「あぁ、とても気持ちいいよ。空を見ながら銭湯に入ると、なんだか色々と感慨深いものがあるね」
　男性は空を見上げながら、隣から聞こえる神無の声に答えた。

　そして自分にしか聞こえないようにぽつりと呟く。
「人間はしばしば希望にあざむかれるが、また、絶望という観念にもあざむかれる。この空は希望か、はたまた絶望か……」

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