うちの子ね。魚が嫌いで食べないの。｜リアクション

うちの子ね。魚が嫌いで食べないの。

御剣刀は友人のすばるや真央から試食会があることを教えてもらい参加を決めた。懐事情で無料で食べられるのはありがたい。同じ高校の八神修も参加すると聞いていたから、寝子高の生徒が多いイベントなのだろうと予想していた。刀の予想は半分正解で、半分不正解だった。試食の一般モニター参加者の過半数は小学生女子児童がしめていたのだ。
魚市場の人間に案内されて刀が調理場近くの試食会会場に到着すると、３人の小学生女子・加藤神々ノ黄昏、隣乃着子、ロミー・クーパーが楽しそうにおしゃべりをしていた。修の姿はまだ見えない。

まずい、俺、浮いてる。

理解するのに１秒もかからなかった。
少し時間を置いてからまた来ようかと思ったのだが、調理場の月詠やすばると目が合って反射的に挨拶をしてしまう。
……みんな、頑張って調理しているんだしな。ここで背中を向けるのは失礼だ。第一、人を避けるようなマネはよくない。とりあえず挨拶を……。
目つきの悪さで園児を怖がらせてしまった過去があるものの、心を落ち着けて小学生に挨拶を試みる刀。
「こんにちは、俺は御剣。今日はよろしくね」
刀が話しかけると、小学生女子トリオも挨拶を返してくれる。
「私は加藤でございます。この子はフェンリルちゃんでございますです」
金髪の神々ノ黄昏が犬のぬいぐるみを抱えながら軽く頭を下げる。少し眠そうな目をした可愛らしい女の子だ。
「つきこなのですよっ。今日ははお魚をイッパイ食べられるとロミーに聞いて、やってきたのですよ」
「な、魚でございます……！？」
続いて着子が元気な声で刀に話しかける。小さなこぶしを胸の前で握っていた。元気いっぱいである。なぜか着子の言葉に神々ノ黄昏が衝撃を受けていた。
「ボクは、ロミー・クーパー……です。あの、えと……よろしくお願い、します」
最後にロミーが、自分の服の袖をきゅっと握りながら挨拶をする。おとなしそうな子だった。
刀の会話のネタはここで尽きた。しゅうぅぅぅりょおおおおう！！
小学生女子の会話に加わるのが辛か……難しかったので、用意された椅子に座って待つことにした刀。八神、早く来ないかな……。心から強く思った。

一方、小学生女子トリオはおしゃべりに花を咲かせている。みんな4年生だ。
「ね、念のために聞くのでございますが……今日はよもやもしや魚の試食会でございます……！？」
神々ノ黄昏が犬のぬいぐるみをきつく抱き、ぶるぶると震えながら尋ねる。彼女の問いに着子は笑顔で頷いた。
「そうなのですよ？　つきこは魚が大好きなので、食べればどの魚なのか分かるのです！　楽しみなのです♪」
神々ノ黄昏は着子の答えにカッと目を見開く。
「家族にだまされて来ましたでございます！！　わ、私は火を通した魚がこわくて食べられないのでございますです……！」
「えっ。らぐなろくちゃん、お魚苦手なの？　前に何かあったのかな……？」
ロミーが心配そうな顔で尋ねると、神々ノ黄昏はゆっくり重く頷いたのだった。ロミーは続きを聞いていいのか迷った後、神々ノ黄昏の顔を覗き込む。
「んっと……。今日は、お魚苦手な子のために、お兄さんやお姉さんが色々考えてくれるんだって。だから、きっと大丈夫だよ。えと……ね、つきこ」
「お魚おいしいのですよっ。つきこ、色々教えてあげるのです！　お魚にはぽて……ぽてんしゃる？　がとーっても入ってるのですよ！」
「ほ、本当でございます……？」
「うん、いろんなお料理が出るんだって。ボクと、つきこと、らぐなろくちゃん、みんなが美味しいと思うお料理きっとあると思うな」
そう言って、ロミーはニコリと笑った。

「すまない、少し遅れ――」
「……！」
刀がものすごく嬉しそうな顔をしたものだから、修はなんとなく状況を察した。

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