うちの子ね。魚が嫌いで食べないの。｜リアクション

うちの子ね。魚が嫌いで食べないの。

旧市街の地域の掲示板。
寝子島魚市場からの「料理自慢求む！」のポスターは多くの島民の目に留まり、魚市場の調理場には少なくない数の人間が集まってくれた。主催者である魚市場の関係者から、火を通した料理限定で子供が食べやすい料理であること。趣旨にあった料理は実際に、こばと幼稚園のメニューに採用されることが改めて告げられた。

「魚離れは子どもだけじゃなくて、大人の間でも起きてるんですよねー」
参加者のひとりである屋敷野梢が長い三つ編みをもてあそびながら呟く。梢は旧市街の高校生主婦を自称しており、毎日祖父と兄の食事を用意していた。家庭料理が得意なようだ。
「しかし、それじゃあ商売あがったりだ！　ここは将来のお得意様になってもらうべく、頑張らないとね」
魚屋・魚新の長男、新井すばるが腕を組みながら朗らかに梢に話しかけた。
「新井君、いつものアレやるんです？」
「もちのロンさ！　ちくわくんで、魚とちくわの地位向上を目指すんだっ」
すばるがどこからか取り出した『ちくわくん』の着ぐるみをババーン！　とかかげる。ちくわくんはPR用の着ぐるみである。
「……といっても、今日はちくわくんだけじゃあない。料理がメインだからね。色々考えてきたよ！」
「ほう。そーですか。それは楽しみですねー」
梢は魚市場が配るエプロンの紐を背中で結びながら、すばるに相槌をうった。今回、料理での参加者にはエプロンがそれぞれ配られている。サンマさん柄だ。

「子供が嫌いなのは骨による食べにくさと魚特有の生臭さがある」
旅鴉月詠が冷蔵庫の中身を確かめながら呟くと、宮祀智瑜もそうですねと応じた。
「わたの苦さや、目が合うと怖いっていうのもありそうです」
「そうだな。大人が苦いものは子供にはもっと苦いもの。食に対する感覚も見逃せない要素だ」
「今日がきっかけで、ひとりでも食べられるようになってくれたら嬉しいですね」
そう言って、智瑜はふわりと笑った。つられるように月詠の空気も柔らかくなる。
「ああ。いい日にしよう。君の料理も楽しみだ」
月詠はカボチャを手に取り、調理を始めた。

「おねーさんおねーさん写真撮ってもいいのだ？　新聞部の取材させてほしいのだ♪」
「あら、部活？　なつかしいわね。別にいいわよー」
後木真央の申し出に城山水樹は簡単に応じてくれた。真央は『ありがとなのだ♪』と言いながら嬉しそうにぴょんと跳ねる。
「私も子供の頃、魚はあまり好きじゃなかったのよねー」
水樹は読者モデルをしているだけありスタイルがいい。Tシャツジーンズというラフな格好でもあか抜けて見えた。長い髪を一つにくくって準備を整える。うなじが見えた。
「おねーさん何作るのだ？　真央ちゃん小さい子、麺類好きだと思うのだ♪」
「私はねー、揚げ物」
「揚げ物！　真央ちゃんも食べたいのだ！」
「ふふ。楽しみにしていてね」
水樹は真央の頭をよしよしとなでた。ちょうどいい身長差だったのだ。

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