【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭｜リアクション

【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭

　猫鳴館の薄暗い一室で月原想花は丸くなっている。身体には薄いタオルケットが掛けられていた。もぞもぞと動いて薄っすらと瞼を開けた。剥き出しの窓は風に吹かれ、カタカタと音を立てる。
　想花は寝返りを打った。窓に背を向けて丸くなる。
　溜息が漏れた。ゆっくりと上体を起こす。目を擦ったあと、枕元に置いていた眼鏡を掛けた。
　猫背の姿で動きを止めた。薄汚れた窓に目をやり、大きな溜息を吐いた。
　億劫そうに起き上がる。皺だらけのＴシャツとジャージを脱いで学校の制服に着替えた。
　ショートボブに手櫛を入れた。
「なんか朝から憂鬱だよ……」
　沈む気分のせいで食欲がないのか。適当に歯を磨いて猫鳴館を後にした。

　坂道をだらだらと下る。
「なんで新入生が、パフォーマンスをしなきゃいけないんだろう……」
　見つけた小石を靴先で蹴飛ばす。
「……ぼくは運が悪いんだよ。桜花寮に入るはずが、手続きのミスで猫鳴館になるし……」
　ずり下がった眼鏡を押し上げる。ぼんやりとした顔で周囲の木々を見た。
「上級生がパフォーマンスをしてくれたら、それでいいんだよ。なんでかな、ぼくは新入生なのに。それに何をしたらいいんだろう？」
　道に出た。周囲の生徒に混ざって足を進める。
「ぼくは体育会系じゃないし。歌も自信なくて無理だし。弟みたいな万能なら困らないんだろうけど、僕はそうじゃないし」
　はっきりとした独り言に他の生徒の目が集まる。想花は気づかず、全力で後ろ向きの考え方を自ら暴露した。
「お腹が痛くなったらいいのに。貧血で倒れたいけど、そうならないんだよ。こういう時だけ、運が少し上向いて、いや、これも運が悪いことの一つだよね」
　周囲から微かな笑い声が聞こえる。自覚して慌てて立ち止まり、口を押えた。
　想花は俯いたまま、笑い声を遣り過ごす。
「……でも、行かないと。逃げたらダメだ」
　力ない言葉で歩き出す。
　前方に一人の生徒、黒白滴がいた。ふらふらとした歩き方が無気力の様子を伝える。
「……ぼくと同じなのかな」
　歩く足に力が入る。滴との距離が縮まった。
「あの、少しいい？」
「私に言ってるのかな～」
　眠そうな目は淡い水色。微笑んだ状態で右の白い髪を指で弄る。左半分の黒髪は鬱陶しそうに手で払い除けた。
「もしかして新入生？」
「そうだけど～」
「ぼくも同じで、あの、突然でびっくりするとは思うけど、パフォーマンスを一緒にしてくれないかな」
「別にいいよ～」
「ありがとう。まだ、何をするかは決めてないんだけど……」
　困ったように笑う想花に滴は、適当でいいんだよ～、と間延びした声を返した。
「うん、そうだよ。今から考えたらいいんだよね」
　何となく同調した二人は揃って登校した。