【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭｜リアクション

【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭

「……少し早すぎました」
　瀬川天音は歩きながら翠緑色の瞳を、それとなく周囲に向ける。生徒の姿は見えない。スーツを着た若い男性が寝子島駅へと急ぐ姿が目に付いた。
　――実家がお寺なので早起きが習慣になっていると言いますか。あと、今日のパフォーマンスの台詞劇が心配なのも、ありますね。
　来た道に目を向けたものの、引き返すことはなかった。通学路を進みながら舞台の台詞を何度も口にした。
　寝子島高校の正門が見えてきた。
「……何か探し物でしょうか？」
　アシュリー・アンダーソンがフェンスの下方を見ながら歩いている。立ち止まると腹立ち紛れに小石を蹴った。ウルフカットの暗めの金髪を右手で掻き毟り、派手な溜息を吐いた。
　生来の性格なのか。天音は足を速めた。
「探し物ですか？　よろしければ付き合いますが」
「今日のパフォーマンスで必要なんだ。見つからないからレンガを用意した」
「レンガをどのようにして使うのですか？」
　聞くとアシュリーは手刀を振り下ろす。
「割るつもりだ。難しいとは思うが」
「怪我をします。別の物にしましょう」
「そうか。やはり瓦が必要だな」
「え、瓦ですか！」
　天音は嬉々とした表情で言った。
「そうだが、用意できるのか？」
「廃棄された瓦でよければ。私の家はお寺なのでたくさんあります」
「それは助かる」
　アシュリーは堂々とした態度で目礼した。
「パフォーマンスは講堂ですね」
「そのつもりだ」
「では、そちらの方に運んでおきます。瓦割り、頑張ってください」
「本当に困っていたんだ。おかげでやる気が出てきた」
「でも、あまり無理はしないでくださいね」
　天音は笑顔で踵を返すと栗色のセミロングの髪を弾ませて戻っていった。