【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭｜リアクション

【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭

「新入生、最後のパフォーマンスは第一グラウンドの特設ステージで行われます。ご迷惑をおかけしますが、移動をお願いします」
　司会進行役の青山絢の声に従って移動が始まった。
　花咲夢乃の判断は早い。近くにいた喜矢武あいおに声を掛ける。
「先にステージに行って用意をするのですわ！」
「僕は完成した衣装を持ってあとから行くのですよぉ」
「わかったのですわ！」
　走り出した夢乃の背にあいおは小さく手を振った。
　混雑を予想して巫部紫苑と嘉渡洲稀跡が速やかに誘導に当たる。生徒会に所属している関係もあり、二人はパフォーマンスの評価について短い意見を交わした。
　その時、横手から中年女性が現れた。
「あの、陸上部に用事があるのですが、場所はどこになりますか」
「私が案内します。あとはお願いしますね」
　紫苑は稀跡に微笑むと女性を伴って部室棟に向かった。
　大半は特設ステージに足を運ぶ。佐藤英二と野々ののこも大きな流れに乗った。
「縁日みたいだね」
　ののこの動きが忙しない。焼きそばの屋台の前にくると胸一杯に息を吸い込んだ。程よく焼けたフランクフルトには生唾を呑んだ。
　側で見ていた英二は制服のポケットから財布を取り出した。
「色々と買ってステージに備えようか」
「それ、いいね！　私は飲み物を買うね。あとフランクフルトに焼きそばでしょ。それとタコ焼きもあるし、あとは……」
　英二は和むような表情をとなった。
「見た目が変わっても、やっぱり野々さんだね」
「英二くん、あの屋台も見てみようよ」
　指差すと人混みの中に突っ込んでいく。英二は笑って後に続いた。
　八神修はカメラを持って機敏な動きを見せた。僅かな熱気も見逃さないという気迫でレンズを向けた。
　同じような動きをする人物に目がいく。同じ新聞部の部員に笑みが零れる。
「……良い記事になりそうだ」
　軽いフットワークで次々と被写体をカメラに収めていく。
　修は踏み出した足を引っ込めた。一歩、戻って右を見ると七夜あおいが屋台の側にいた。串に刺さったフランクフルトに息を吹き掛けているようだった。
　修は気付かれないように近づいた。大きな口を開けて先端を齧った瞬間を狙ってカメラで写した。
「あ、修くん、もしかして撮った？」
「豪快な一枚が撮れたよ。協力、ありがとう」
「もう一枚、撮ってよ。こんな感じでどうかな」
　一方のツインテールを指で弄る。フランクフルトに窄めた唇を近づけた姿で右側の脚を軽く内側に曲げた。
「あおいは自然のままがいいよ」
「自分でしてみて、そう思った」
　にかっと笑ってフランクフルトに齧り付く。艶やかな唇でもぐもぐと口を動かした。
「うん、いいね」
　修は素早くカメラを構えて撮った。
「写りはどう？」
　あおいに聞かれると修は間を空けて頷いた。
「よく撮れているよ。俺はもう少し写して回る。あおい、また」
「うん、またね」
　あおいは笑顔で言った。
　修は微笑みを返し、特設ステージに向かう。
「……本当の笑顔は、俺の心の中に……」
　引き結んだ唇で修はカメラを構えた。