【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭｜リアクション

【新入生歓迎会】情熱のイッサイガッサイ新歓祭

　パフォーマンスで集まった水泳部の部員は二桁を超える。舞台裏は鮨詰め状態となった。
　最後尾にいた仙藤蒼と水上桜の両名は空間に余裕があるものの、どちらも切羽詰まった顔をしている。
　蒼は落ち着かない目を桜に向けた。
「あの、先輩。今頃なんですけど、この高速脱衣って本当に水泳部の伝統なんですか？」
「どうだろう。クラブの部員勧誘の時、高速脱衣は行われていたし、神速脱衣もあったわ。だから伝統と言えるのかな」
「やっぱり、そうなんですか」
　退路を断たれた蒼は力なく笑った。目にした桜は笑顔を作る。
「わかるよ、その気持ち。実を言うと、私も恥ずかしい。早く終わって楽になりたいと思っているんだけど、やるからには手を抜かないつもりよ」
「私も、そうですね。家で練習はしました。その成果を見せる為にも、その、頑張ります」
　二人の決心が固まった。
　その時、司会進行役を務める青山絢の声が聞こえてきた。
「次は水泳部によるパフォーマンスになります。一瞬で終わる早業になりますので瞬き厳禁でお願いします」
　絢は愛嬌を振りまきながら舞台袖に戻った。控えていた全員に向けて、お願いします、と小声で言った。
　代表の三年の男子が静かに、行くぞ、と声を掛けて先頭で歩き出す。他の部員が後に続いた。
　蒼と桜は黙って見つめる。
　先頭の男子が反対側の舞台袖に到達。順々に人々の方に向いた。腰に手を当てた姿で直立の姿勢を崩さない。全員が横一列になったことが合図となった。
　蒼は前列として一歩を踏み出す。少し遅れて桜が顔を上げて出ていく。
　拍手と声援が二人に降り掛かる。蒼は緊張のあまり、止まる位置を少し出て僅かに戻り、桜の動きに合わせて正面を向いた。
「瞬きしないで見てるよ！」
「がんばって！」
　蒼は僅かに視線を下げた。
「……ゲームのイベントよ。そう思えば……」
　全員と同じポーズを取る。横の桜は赤らめた頬で背筋を伸ばした。
　後列にいた三年が合図となる声を上げる。
「我ら水泳部、伝統の技、刮目して見よ！」
　その直後、全員が声を揃えて、高速脱衣、と叫んだ。
　瞬間、着ていた制服が宙を舞う。
「完了！」
　合わさった声で全員が水泳に纏わるポーズを決めた。
　驚きの声と共に耳朶を打つ拍手が完成度の高さを物語る。
　野々ののこの鼻息が荒い。
「英二くん、あれってどうやってるの」
「僕にはわからないよ。制服に仕掛けがあるのか。脱ぎ易いような手順があるのか」
「私にも出来ないかな」
「出来たら、ちょっと困る」
「えー、なんでー」
「いや、それは、まあ、下が水着なら。でも、それでも……」
　佐藤英二は赤ら顔で深い思考に沈み込んでいった。
　目立たない位置で見ていた雨崎荒太郎こと、ミスターＡは拘束具の異様な姿と異なる感想を漏らす。
「ヨクヤッタ。ミゴトナデキダッタゾ」
　言葉の通り、いつまでも拍手を送り続けた。
　八神修はカメラの連写を利用した。確認の為、コマ送りのように画像を見ていくと若干のズレが見られた。
「……最後の写真を採用するか」
　全員が脱ぎ終わり、晴れ晴れとした顔を見せていた。
　その間に水泳部は一列となって引き上げる。最後尾に付けた蒼と桜は誇らしげな顔でゆったりと腕を振り、女王然とした態度で観客に応えた。