おにぎりを日常に添えて｜リアクション

おにぎりを日常に添えて

●空腹と仕事

　初瀬川理緒はグラドルとしての仕事に追われていた。
　大学に受かって、色々と忙しくなるなかでも仕事は容赦なくやってくる。おおげさではなく、目が回るような忙しさだった。

　その日は朝からの撮影で、競泳水着やビキニなど色々な水着に何回も着替えた。プールの手すりにしなだれかかったり、水面に浮かんだり、デッキチェアに寝そべってそのまま無防備な姿をさらしたり。また撮影の合間にスタッフと一緒に自分がどう映っているかチェックもするので、休む暇がない。

　そんな調子であっという間に午後１２時。
　朝からぶっ通しの撮影で、休憩らしい時間がようやく訪れた。しかしスタッフが昼食をたべるなか、理緒だけは何も口にしなかった。食事後はお腹が膨れてしまうため、水着での撮影時は食事抜きになる。

（仕方ないのは分かるんだけどね……）

　だから昼休みはファッション雑誌を見たり、スマホでSNSのアカウントに自撮りした水着姿とともに『お昼休みだけど、お腹膨れるから食事抜きｗ』なんて投稿をして時間を潰す。
　休憩の時間も終わって、午後の撮影が始まる。当然すきっ腹を抱えての撮影になる。

（慣れたとはいえ、さすがにキツい……）

　それでもどうにか乗り切り、夕方には撮影終了。後日、屋外での撮影もあるが、今日はこれでひと段落。

「お疲れ様でした！」

　理緒やスタッフたちの声が響く。
　撮影のセットを片付けながら、スタッフは夕食の準備をする。もっとも理緒にとっては昼夕兼用になってしまったが。
　用意された食事はなぜかおにぎりがたくさんだった。梅干しに昆布にツナマヨに辛子明太子など、バリエーションも豊富だ。他には唐揚げやフライドポテト、ウインナーなどが並んでいる。でも、これぞ撮影弁当と言った感じだ。

「いただきます」

　一同はその一言を皮切りに好きなおにぎりを選んでいく。まず理緒は梅干しのおにぎりを口に運ぶ。

「おいしい！　いやーおにぎり最高だねー、いくらでも入っちゃう」

　おおげさではなく、本当においしい。しかし、おいしいからこそ気になることもある。理緒はさりげなく自分のお腹あたりに目をやる。

（美味しくていくらでも入っちゃう。調子に乗って食べ過ぎないようにしないと……）

　そう思っていても、さまざまな味のおにぎりを前にすると思わず手が伸びる。

（鮭にたらこにツナマヨに……もう最高！）

　昼休憩に食べられなかったこともあって、その日のおにぎりは格別おいしかった。

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