おにぎりを日常に添えて｜リアクション

おにぎりを日常に添えて

●とある休日の過ごし方

　薬師寺亜美佳は自室で目を覚ました。
　ぼさっとした髪をかきあげながら時計を確認すると、午前10時頃だった。朝というには遅く、昼と呼ぶには早いくらいで、ご飯をどうしょうかと考える。今日は休日なので焦る必要はない。かといって自炊するほとアクティブでもない。

（なんだか、急におにぎりが食べたくなってきたわ）

　なぜか無性に食べたくなり、彼女はコンビニへ行くことにした。ただ、出かける支度もするのも面倒なので、適当に髪をまとめてジャージに身を包む。
　到着後、店内を巡っておにぎりを２個とインスタントの味噌汁、それとペットボトルのお茶をカゴのなかへ。それらの会計を済ませるとイートインコーナーに向かった。

　おにぎりの具はたらこと昆布で、ともに海苔付き。
　味噌汁にお湯を注いで、フリーズドライの具が開くまでの待ち時間に、たらこのおにぎりを手に取った。

　コンビニの三角おにぎりはビニールで包装されているが、この開け方には手順がある。
　まず三角のてっぺんに書かれた『１』の部分をつまみ、くるっと一周させる。そうすると左右が切り離されるので、底側の角に書かれた『２』『３』の部分をつまんで引くと、のりを覆うビニールがするっと外れて、おにぎりが出来上がる。

　亜美佳もその手順に従って、まずは『１』と書かれた部分をつまみ、ぐるりと一周させようと引く。
　しかし半周したあたりで、ぷちっと音を立てて切れてしまった。つまんだ指先には中途半端に切れたビニールが残っている。気を取り直して、ちぎれた所をつまんで何とか一周させた。
　次に『２』と『３』の書かれた部分を引っ張って、のりと米を合体させようと試みる。だが、バリッと勢いよくおにぎりが真っ二つになってしまった。

「……」

　亜美佳は少しの間、それを眺めていた。
　結局真っ白なおにぎりを取り出してから、ラップに残った海苔を抜いて巻きなおした。彼女は昔からどうにもこの仕組みに慣れなくて、完璧なおにぎりを取り出せたことがない。

（力加減がうまくいってないのかしら……まあいいわ、味に変わりはないんだし）

　そう思いつつ、のりを改めて巻いたおにぎりを眺める。

「さて、いただきます」

　まずはたらこ味のおにぎりを口に運ぶ。

（やっぱりおいしい……たらことごはんの相性抜群）

　たらこの食感を楽しみつつ、時々味噌汁を飲む。

（おにぎりを選ぶとなぜか魚介系の具を選びがちなのよね、鮭とか）　

　そんなことを思いながら、１つ目のおにぎりを完食した。
　２個目の昆布おにぎりを準備するが、こちらも上手く剥ける気はしない。

（たまにはこんな日があってもいいじゃない、ね）

　イートインコーナーに座る、とりあえずまとめた髪にジャージ姿のおひとり様。
　人生のうちの１コマに添えてもいいのではないか、と亜美佳は思った。

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