はじめてシナリオ｜リアクション

はじめてシナリオ

　寝子島高校に入学した花咲夢乃は早々と部活動に力を入れる。選んだクラブはアイドル活動研究部。趣味と見事に合致していた。
　今日は日曜日。すっきりと晴れた。部活動の一環として九夜山にあるという、寝子島イリュージョンランドを目指す。アイドルがライブをする場所として相応しいのか。見極めるつもりでいた。
「万全です」
　パンツルックに着替えた夢乃は背中にナップサックを背負う。大きな姿見に全身を映し、強い意志が宿る目で小さく頷いた。
「ツインテールの右側が少し気になります」
　左右の長さを均等にした。愛らしい顔でにっこりと笑う。
　調子は上向いて元気に星ヶ丘寮を後にした。

　電車とロープウェーを利用して体力の温存に努めた。展望台前からは歩きに徹した。
　木々の緑は目に優しく、可憐な花々に心が躍る。男性の登山者を目にした夢乃は率先して声を掛けた。
「こんにちは」
「こんにちは」
　相手も気さくに返す。
　若い女性を見掛けると夢乃の目がキラリと光る。容姿や歩き方をつぶさに見て、私がプロデュースするなら、と無意識に呟き、未来のアイドルについて構想を練った。
　九夜山の山頂に着いた。心地よい風が吹いている。目を細めて涼んだあと、眼下に見える三夜湖に向かって山道を下っていく。
　足元の小石に注意しながら湖の畔に出た。人の足によって踏み固められたような小道をいくと正門らしいところに行き当たる。
「……本当に実在するのですね」
　夢乃は生唾を呑んだ。夢の跡地にひっそりと足を踏み入れた。
　すぐに観覧車に目がいく。カラフルなゴンドラは部分的に色が剥げて茶色くなっていた。止まった時の中で朽ちていく姿は儚く、胸に迫るものがあった。
　夢乃は潤んだ目で辺りを見て回る。
「素敵です……このような遊園地を放置するなんて、とても勿体ないです」
　揺れる声でメリーゴーランドに目をやる。足を止めて活躍の場を失った木馬を見つめた。
　――夢を生み出すアイドルと遊園地はどこか似ています。
　今は廃墟同然ですが、アイドルのライブ会場として活用すれば、昔のようにたくさんのお客さんで賑わうのではないでしょうか。
　全てを見た訳ではない。夢乃は案内板を見つけて次の行き先を決める。
「アイドルと遊園地は私達に夢を与えてくれます」
　しっかりとした声で言い切ると笑顔で夢の跡地を散策した。

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