「あれ、おかしいなぁ」
彼女は首を傾げた。目に付いた電信柱に駆け寄り、取り付けられた細長いプレートに注目する。手にしたメモの住所と見比べた。
「番地が違うんだね」
手前の三叉路を見て、どっちかな、と言いながら頭を左右に揺らす。
「どこに行きたいの?」
民家の壁に背中を預けていた男子が聞いてきた。先程まで見ていたスマートフォンをパーカーのポケットに収める。
「寝子島図書館なんだけど」
「それなら俺が案内するよ」
「あ、でも、誰かと待ち合わせとかしてたら悪いし」
彼女は困ったような上目遣いで言った。
「メールに返信してただけで、そんなんじゃないから。それに俺、引っ越してきたばかりだし」
「そうなんだ。わたしも三月まで本島に住んでたんだよ。もしかして寝子島高校?」
「そうだけど。で、そっちは一年何組なんだよ」
「え、わたしは二年だけど」
先輩風を吹かせるように胸を張る。
男子は上から覗き込むようにして言った。
「先輩だったんですね。迷子のちびっこだから勘違いしました」
「なんか、その態度……まあ、実際に迷ったんだけどね!」
彼女は怒った目で笑った。
「冗談だって」
「笑ってるし!」
言い合いながら二人は一緒に歩いた。
青年は速足で歩く。時に空を見た。黒い雲が全体を覆っている。
コンビニエンスストアの前を通り掛かった。ガラス越しに安っぽいビニール傘が見える。
「間に合うはず」
横目のまま、通り過ぎた。
大通りに出た瞬間、大粒の雨が降ってきた。一瞬で視界が悪くなる程の豪雨に青年は面食らった。
避難場所を探すように忙しなく目を動かす。
「おーい!」
その声に目が釣られた。シャッターが閉まった店舗の軒先に若々しい女性がいた。手を大きく上下に振っている。目にした青年は慌てて飛び込んだ。
「背広がびしょびしょだね。ハンカチ、持ってる?」
女性は気さくに声を掛けてきた。
「ない、みたいです」
「これで拭きなよ。今日は肌寒いし」
ジャケットのポケットから薄桃色のハンカチを取り出した。
「すいません。お借りします」
青年は両手でハンカチを受け取ると、背広の黒くなった部分に押し当てた。濡れた顔を拭こうとして躊躇いを見せる。
「気にしなくていいよ」
「本当にすいません」
頭を下げながらハンカチで顔を拭った。手にしたハンカチは雨と汗でぐっしょりと濡れた。
「あの、ハンカチは弁償します。よろしければ連絡先を教えてはいただけないでしょうか」
「あなたは男前だし、教えてもいいよ」
「そんなことは。でも、助かります」
青年は背広のポケットからスマートフォンを取り出した。女性は軽く肩を叩く。
「折角の出会いなのにアドレス交換は味気ないよ。ほら、あそこに喫茶店があるでしょ」
指差す先にはレンガ造りの喫茶店があった。
「あそこでゆっくり話そうよ。時間は大丈夫?」
「不慣れな土地での外回り営業なので、時間は取れます」
「じゃあ、決まりだね」
雨の中、二人は共に飛び出した。
運命の気まぐれなのか。接点のない二人が偶然に出会い、縁を結んでゆく。
あなたは誰と縁を結びますか?
今回のシナリオは「はじめて」をメインテーマにしています。
シナリオガイドでは二人に限定されているように見えますが、複数でも構いません。
単身でふらりと参加も歓迎します。意外な人物との出会いが待っているかもしれません。PBWの醍醐味ですよね。
∞・∞ 今回の舞台 ∞・∞
某日の寝子島。曜日や天候はアクションで自由に選べます。基本は一日ですが、
アクションに書かれていれば、ほんの少しの後日談を入れることはできます。
∞・∞出会いの場所∞・∞
指定された場所に適した行動であれば全て採用します。
関連先を以下に書き記しておきます。アクションの参考にしてください。
九夜山の展望台
寝子島を代表する山の頂上にある展望台。
近くには九夜(ここのや)食堂があり、登山客の憩いの場所となっている。
寝子島イリュージョンランド
九夜山の近くにある廃墟となった遊園地。隣接した三夜湖と同様に落ち着いた雰囲気を醸し出す。
またたび市動物園
木天蓼市が運営管理している動物園。創立五十年と歴史は古く、島民に愛されている。
寝子島マリンパラダイス
寝子島シーサイドタウン駅の近くにある水族館。海や川の生物が数多く飼育されている。
欧風料理店『Mahlzeit』
シーサイドタウンにあるドイツ木組みの家街道をイメージした欧風料理店。温かみのあるインテリアで入り易い。
他には買い物客で賑わうキャットロード、複合施設の駅ビルmiao、郷愁を誘う参道商店街等があります。
長々と書いてきましたが以上になります。
どこでどのような出会いをするのでしょうか。
寝子島には上記に挙げた場所以外にも色々な名物スポットがあります。
もちろん新しい場所を作ってもいいですよ。筐体専門のゲームセンターとか。
あなたらしい出会いをして、たくさんの人達と繋がり、サードシーズンを丸ごと楽しんじゃってください!
良いご縁がありますように。