新年度、九夜山ピクニック☆｜リアクション

新年度、九夜山ピクニック☆

〇湖畔のファンタジー

　１年の月原想花は、ピクニックでは湖畔組になりました。
　選べと言われても寝子島に来たばかりだし山に興味もなく、適当に周囲と同じコースを選んだのでした。

　両親が成績優秀・スポーツ万能な弟ばかりかわいがるので、家に居づらくて寝子高へ入った想花。
　小説投稿サイトにファンタジー小説を投稿したり、ファンタジー系ＰＢＷで男の子ＰＣで遊んだりしているインドア派でした。
　想花の一人称が「ぼく」なのは男の子ＰＣで遊んでいる影響のようです。
　そんな想花がピクニックに参加したのは、手続きミスで猫鳴館に入居してしまったのがきっかけでした。
（本来は桜花寮に入るはずだったのに……暗くてじめじめした空間じゃ落ち着かない）
　それで少しは太陽の光でも浴びようかと思い参加したのでした。
　とはいえ猫鳴館も悪いところだけではありません。
　色々と空想を巡らせるのにいい環境ではあるのです。

「はぁ、はぁ……」
　普段、ロクに運動しない人間が九夜山へ向かうのは無謀でした。
　想花はすぐにへばってしまい、青息吐息となりました。
「月原さん、大丈夫？」
　養護教諭の鷲尾礼美先生が心配そうに声をかけてくれました。
「な、なんとか大丈夫です……体力がないだけなので」
（ここまで来て帰るのも疲れるだけだし、先へ行くしかないよね）

　どうにか九夜山の三夜湖畔へたどり着いた想花は、へたへたと座り込みました。
「熱はないようね」
　鷲尾先生は想花の額に手を当てたり、手首を取り脈を見てくれたりしましたが、大丈夫という結論に達したようです。
「水分を取って、ご飯を食べたほうがいいわ。食欲ないでしょうけど食べて元気出しましょう」　
「はい、すみません……」
（それにしても鷲尾先生って綺麗でセクシーだなあ……学校の先生とは思えないくらい）
　そんなことを思いつつクラスの子のグループに入れてもらった想花は、弁当を食べてどうにか一息つきました。

「ボートに乗りに行こうよ」
「月原さんは？」
「……あ、僕は疲れたから休ませてもらうよ。いってらっしゃい」
　ボートに乗ったりする気力はとてもなく、みんなを見送った後想花はぼんやりと湖の様子を眺めました。
（湖……龍が出てきたりしたら面白いだろうな）
　今書いている冒険ファンタジー小説で、戦闘の舞台をどこにしようか考えているところでした。
（空中戦なら弓矢かな。水の中から飛び出して引きずり込もうとする敵も面白いよね……あ、鷲尾先生みたいな美女もどこかに出したいかも）
　湖での戦いの様子が色々と浮かんでは消え、そこから新しい展開のネタが浮かんできました。
「羽を持つ我が魚どもに後れを取りはしない。天の裁きを受けよ！」
　すっかり空想に没入した想花は、立ち上がり中二病的台詞にアクションまでつけてポーズを決めていました。
「……あの、月原さん？」
　声をかけられて我に返ると。
　いつの間にか戻ってきていた級友たちが、想花の姿をぽかんと眺めていました。
「え、ええと……お騒がせしました」
　この状況をどう説明するか、想花は大いに悩むのでした。