新年度、九夜山ピクニック☆｜リアクション

新年度、九夜山ピクニック☆

☆あおいと共に

　八神修は、七夜あおいと共に千年杉に着きました。
「写真を撮ろうか」
　デジカメを取り出しあおいを一枚パチリ。
「修君も撮ろうか？」
「ありがとう、美の泉まで行ったらもう一枚撮ろうか」
　あおいがそう言ってくれたのに喜びつつ、美の泉に着いて。
　三脚を出そうか迷っているところに。
「良かったら撮るよぉ」
　射撃部顧問のウォルター・B先生が声をかけてくれました。
「ありがとうございます、お願いします」
　ちょっと照れ笑いしながらデジカメを託し。
　修はあおいと並んで写真に収まったのでした。
「頑張ってねぇ」
　デジカメを返す時、ウォルター先生は修にしか聞こえない声でそう囁いたのでした。

「綺麗な泉……」
「そうだね」　
　光学望遠と感度を最大に水底撮ったら何が写るかな、などと思いつつ。
　修はあおいと泉に手をつけてみます。
「紙も染められるんだって。やってみる？」
　あおいの言葉に、
「ぜひやってみたいな」
　と頷き、修はノートや便箋を出して。
　ちゃぽん。
　と水に入れます。
「科学の実験みたいだ」
　笑いながら、修は七色に染まる紙を眺めているのでした。
「そうだね」
　あおいも紙を出して虹色に染めています。　
「不思議だねー」
「乾かしておこう。その間にお弁当を食べようか」　

　レジャーシートを広げ、二人はお弁当を広げます。
「修君はどんなお弁当？」
　あおいに尋ねられ、修は自分のお弁当を見せました。
「俺のはサンドイッチ少々。卵サンドとか野菜サンドだよ」
「美味しそう」
「あおいのとちょっと交換できたら嬉しいな」
（もし俺の分も作ってくれてたら嬉しい驚きだが）
　そんなことを思いながら、あおいのお弁当を覗き込むと。
「そう言うかもしれないと思って、修君のと交換する分も作ってきたよ。私のはおにぎり弁当」
「ありがとう」
　あおいとお弁当を交換しながら、そういえば去年もこんなことがあったな、と修は思い出しました。
　あの時は三夜湖のボートの上で、二人でお弁当を食べたのでした。
「いただきます」
　去年と比べて、あおいのおにぎりの形はずいぶんきれいになっていました。
「わぁあ、美味しい……！」
　嬉しそうなあおいの顔。
「こっちも、美味しいよ」
　感想を伝えて、修はほんわりと幸せを感じるのでした。
「おかずも、良かったら食べて」
「ああ」
　他の人が作ったのなら、いいものを食べ慣れている修にはとても美味しいとは言えなかったことでしょう。
「美味しいよ、あおい。前よりも美味しくなってる」
（……進歩したな）
　けれどずっとあおいの料理を食べてきた修は、その進歩にしみじみと感動するのでした。

　食事の後は、２人でのんびりしました。
「広い景色の中でまったりするの好きなんだ」
（あおいも好きだろうか）
　そう思った修の耳に。
「うん、私も、好きだよ」
　聞こえてきた『好き』というフレーズに思わず反応してしまいました。
「……修君？」
「うん、景色だよな景色。大丈夫、分かってるよ」
　慌てて言う修に。
　あおいはちょっと戸惑った顔になって。
　それから小声で。
「私、修君も……」

「ば、化物？！」
　二人の静かなひと時は、泉のほうから急に湧きあがった喧騒によって破られました。
「人面魚だ！」
　
（……え）
　しかしそんな喧騒の意味は修の中に届いておらず。
　かき消えたけれど聞こえたような声を、聞き返す事もできずに。
　ただあおいを見つめ返しているのでした。
（多分、これが、尊死（とうとし）ぬということだ……）

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