新年度、九夜山ピクニック☆｜リアクション

新年度、九夜山ピクニック☆

☆千年杉と美の泉

　梓智依子は、４年遅れで高校生になりました。
　14歳でシングルマザーになった彼女は、娘を出産してからこの４年間、育児に専念していたのです。
　クラスで浮いてしまわないか心配でしたが、案ずるより産むが易し。
　クラスメイトに優しく受け入れられ、初めての学校行事である九夜山へのピクニックにやってきました。

　背が高くファッションモデルのような美人の智依子は、もちろん高校１年生には見えず、シングルマザーにも見えません。
　２、３歳年下の同級生たちと他愛もない話をしながら、砂掛谷から北西にある巨木、千年杉へ向かいます。
「近くに『美の泉』という温泉があるんだって」
「美容にいいって本当？」
「そうなの。美しさ１２０％になるんだって！　しかも、水が虹色なんだって」
「しおりに書いてあったけど、ほんとかな？」
「行ってみようよ」
　というわけで、観に行くことになったのでした。
「あれじゃない？」
　近づいてみると、美の泉は青～緑～黄～赤のグラデーションを鮮やかに描いているのでした。
「綺麗……」
　智依子たちは思わず見とれてしまいました。

　智依子は試しにリュックからルーズリーフを１枚取り出し、浸してみました。
　それはあっと言う間に虹色に染まりました。
「色合いがとても綺麗、後で適当な大きさに切り分けて本の栞にしようかしら」
「いいわね、私もやろう」
　他の子たちが紙を取り出している間に、智依子は白地のＴシャツを２着取り出しました。
　ピクニックのしおりを見てあらかじめ用意してあったものです。
　大きめのシャツと、小さなシャツ。
　泉の水に浸します。
「準備がいいわね。え、２枚？　ちっちゃいのってもしかして」
　同級生に問われて智依子は微笑みながら答えます。
「そう、もう１着は娘のものなの。おそろいで虹色のＴシャツを染めようと思って」
「いいなあ、きっと可愛いよ」
　水に浸してから引き揚げたＴシャツを、日当たりの良さそうなところに干して乾かしておきました。
（楓、喜ぶかしら）
　娘の笑顔を思い浮かべて自然と笑みがこぼれます。
　子供を産むまでは、こんな気持ち想像もできませんでした。

「あら……？」
　ふと手を見たら、なぜか肌がとても綺麗になっていました。
（もしかして、泉の効用かしら？）
　みんなより年上だけど、高校生なので化粧するわけにはいかない智依子としては、ありがたいことです。
（顔にもつけておこうかな）
　まだ濡れている手で、そっと顔を覆ってみたりするのでした。

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