雨の中のワルツ - a waltz in the rain｜リアクション

雨の中のワルツ - a waltz in the rain

　留置所にさゆるを迎えに来てくれたのは、姫木じゅんだった。
「ほら帰るよ」
　ドライに告げるとじゅんはボールペンを取り出し、署名が必要な書類についててきぱきと指示してくれた。
　不必要ななことは何も言わない。
　警察署を出るとき、さゆるの肩に新品のスプリングコートを肩にかけてくれた。
「あんたが着てたの、血まみれになったからね」
　じゅんの私物だ。サイズはやや小さいし少女趣味のデザインだが、黙ってさゆるはボタンを留めた。
　何度も事情聴取は受けた。しかし担当刑事の吐前によれば、さゆるは不起訴になりそうだという。数日で消えそうなごく薄い傷だったとはいえ、先に手を出したのはまちがいなく相手だったということもある。殺すこともいとわず刺したつもりだが、幸か不幸か松木――いや、本名は磯村というらしい――の命には別状がなかったおかげもあった。きわどいところだったが正当防衛が認められる見込みだ。
　これから磯村にとっては長い裁判がはじまるだろう。今回の件に限っては十年の懲役がせいぜいということだが、余罪が相当あるらしいのでもっと長い懲役になりそうだ。人身売買に厳しい外国から引き渡しの要請もあったらしい。そう簡単に出られることはあるまい。
　警察署の前にタクシーが待っていた。
「帰ろう」
「どこへ……？」
「私たちの部屋」
　じゅんのマンションにはすぐに到着した。
　じゅんは後ろ手でドアに施錠した。部屋の中央に立ちつくしているさゆるにつかつかと歩み寄るとようやく、
「どれだけ心配したと思ってるの！」
　絶叫してさゆるにしがみつき、激しく嗚咽したのだった。
「さゆる……私はあんたのすべてを知っているわけじゃない。たぶん、理解しきることもできない……でもわかって、あんたは私の……私の……」
「じゅん……」
　さゆるの目にも涙があった。じゅんの背中に腕を回す。
「お願い、あたしを抱いて……あたしを抱きしめて……！」
　さゆるをベッドに押し倒しコートをちぎるようにして剥ぎ取ると、服を脱ぐのももどかしそうに、じゅんはさゆるの下着に手をかけた。

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