うごきだす春、部活動＆同好会｜リアクション

うごきだす春、部活動＆同好会

●桜咲く家庭科同好会

　２年生になった水上桜は多忙であった。
　黒髪黒瞳の繊細そうな外見とは裏腹に、水泳部と家庭科同好会を掛け持ちしており、その上、生徒会の会計まで務めているのだから当然だ。思ったよりアクティブなんだね、とは知り合って１年経った友人たちの評価だが、自分ではあまり自覚はない。
　ある日の放課後、桜は家庭科同好会の活動に久しぶりに顔を出していた。
「水上さん、今日は水泳部や生徒会は？」
「今日はどっちもないんだ。ええと新入生の子に挨拶した方がいいよね？」
　新年度になって初めて見る先輩を物珍しそうに伺っていた新しい仲間に、桜は簡単に自己紹介した。
　生徒会のメンバーということで、はじめは雲の上の人と思われていたようだが、それも最初だけ。
「ずっと忙しかったから出来ずにいたけど、今日こそはアクセサリー作りたくって！」
　なんて張り切る桜に、後輩たちも少しずつ気を許していく。
　細かい作業が好きな桜はアクセサリー作りが趣味だった。新年度なのでまずは簡単な小物類を作ろうという課題が与えられ、桜はカバンなどにつけるチャームを作ることにした。
「どんなのにしようかな」
　ルーズリーフにイメージ画を何枚か描いたり、用意された素材とにらめっこしながらアイデアを練る。
「んー、今日はシンプルにビーズを使ったのを作ろうかな！」
　桜はビーズのケースの中から、金の珠ビーズと、ピンクのハート型ビーズに目を付けた。
　春だからモチーフは花がいい。自分の名前と同じ『桜』にしよう。
　桜が、針と糸でビーズの桜を作り上げると、後輩の子が覗き込んできた。
「わあっ、可愛い桜！　私も作ってみたいです！　どうやって作るんですか？」
「そんなに難しくはないよ。まず金のビーズを５つ繋げて、中央のおしべ部分をつくるでしょ。そこに花びらになるハート型のビーズをこう組み合わせて……ほら、もう完成」
「待って先輩、速い……もう１回お願いします」
「あっ、ごめん。じゃあもう一度ね」
　今度はもっとゆっくり、手元が見えるように教えてあげる。
「で、出来ました！　ビーズはじめてでも簡単でした！　かわいい！」
　はしゃぐ後輩の声を聞き、ほかの部員たちも教えてほしいと寄って来た。見学に来た雛鶴さゆり先生まで混ざって、束の間ビーズ講習会が繰り広げられる。
　桜。桜。桜。
　机の上がビーズの花で満開だ。

「はーい、そろそろ時間だから片付けてー」
「おつかれー」
　活動の終わりに家庭科教室の掃除を済ませ、帰り支度をした桜は、数人の後輩たちと学校近くのファーストフード店に誘ってみた。
「せっかくだからこのあとニャック行かない？」
　何人かの後輩たちが嬉しそうに頷く。
　ニャックは部活帰りの学生で込み合っていた。窓際の席に陣取り、桜たちはいろんなことを話した。アクセサリーづくりのこと、学校生活のこと、ほかの部活のこと……。
　気づけば何時間も過ぎていて。
「いけない。寮の門限近いから、今日はこの辺でね」
　桜は慌てて、お先にと席を立つ。
　桜花寮の門限は２１時。
　ほんとうによくしゃべったものだ。
（新入生が話が合う子たちで良かった！）
　帰宅を急ぐ桜の鞄には、ピンク色のビーズのチャームが揺れていた。