うごきだす春、部活動＆同好会｜リアクション

うごきだす春、部活動＆同好会

●軽音部あるある

「先輩、よろしくお願いします！　弾ける楽器はギターです」
　軽音部の部室にて、新入部員たちの自己紹介を聞きながら楡宮遠海はそっと天を仰いだ。
（またギター志望の子かあ）
　「軽音部あるある」で、よくありがちなこと。
　それはギター志望で入る人が多い、と言うことだ。
　もちろん軽音部だからハープが弾けますという人を求めているわけではないけれど、ギターばかりでも困ってしまう。聞くところによると、その年に入部した新入生全員がギター志望だったりすることもあるそうだ。
　だが、当たり前だが、バンドとは日本語に訳せば『楽団』だ。
　ギタリストだけで構成されるのはまれで、ベースやドラム、キーボード、さらにボーカルと各パートが揃ってこそ、演奏できる音楽の幅も広がるというもの。
　ちなみに遠海は母親が元ガールズバンドのキーボーディストで、母親譲りの才能と演奏技術もあって最初からキーボード志望。だから割とすんなりポジションを獲得できたけど……。
「えーっと、ドラムとかキーボード志望の人っていないのかな？」
　問いかけてみるけれど、帰って来たのは微妙に気まずい沈黙。
（うーん、いないのかあ）
　頭を過ぎるのはもう一つの「軽音部あるある」。
　ドラムとキーボードを志望する人が少ない。
　ドラムとキーボードの人は、いろんなバンドの取りあいになるくらい大人気だ。実際、遠海も中学校時代は中学の軽音部に所属する傍ら、学校外のバンドにも参加しており、そこで結構鍛えられた。
「まあいいわ。いる人で音出ししましょ！」
　寝子高の軽音部は自由度が高く、練習も自由参加だ。
　部内で自由にバンドを組み、好きなアーティストの曲を練習したり、オリジナル曲を作曲したりする。
　今日は近ごろ流行りの覆面アーティストの曲をコピーしようということになって練習している。
　それはいいのだが……。
（居心地悪いなあ。……ってか、暇すぎるんだけど！）
　キーボード担当は、曲によって演奏中は滅茶苦茶忙しいか目茶苦茶ヒマかの両極端になりがちだが、この曲は遠海が置き物に見えるくらいキーボードが目茶苦茶ヒマな曲だったのだ。
　一応鍵盤の上に手を置いて、リズムに乗っている振りはしてみるが、実際に演奏する場面がほとんどない。
（ちょうどいい忙しさの曲ってこの世にないの！？）
　ちょっと頭に来てしまって、間奏で速弾きのアドリブを入れると、一緒に演奏していたギターの子が驚いたようにこちらをみた。
（なによ、後悔なんかしないわよ！？）
　挑むような目を返すと、ギターの子がニヤッと笑った。
　何かと思うと自分も速弾きのアドリブを繰り出す。
（いーじゃん！　私のアドリブで少しは景気がついたかな？）
　さっきまでの不満はどこへやら、遠海は胸がすく思いで笑み返した。

　そんなこんなで練習終了。
　実は大食いな遠海はひとりふらっとラーメン屋の暖簾をくぐる。
　意外なことに雛鶴さゆり先生がカウンター席にいたので隣に座って部活のことなどすこし雑談。
「いやー、練習後のラーメンっておいしいですよね」
　本日もおいしく一日を締めた遠海であった。

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