うごきだす春、部活動＆同好会｜リアクション

うごきだす春、部活動＆同好会

●生物部、見学しませんか？

　――他の部を見学して学んできていただきたい。
　顧問になったアイ活研の生徒の頼みをきいて、雛鶴さゆり先生が生物部の部室に顔を出したのは、彼女たちの初ライブの翌日のことだった。部室には白衣を羽織った３年生の神野美野梨がいて、見学に来た新入生たちに丁寧な活動紹介をしているところであった。
「鶏にウサギ、メダカも飼っているわ。可愛いでしょう？」
　眼鏡をかけた美野梨は如何にも研究者然とした雰囲気で、見学者たちにウサギを触らせてあげている。
「生き物が相手ということは、休みはなしなんでしょうか？」
　ほかの部活にも興味があるらしい新入生の一人がたずねると、美野梨はふわりと微笑んで答えた。
「当番は必要だけど、毎日ではないのよ。都合の悪い時は交代できるし。逆にそれ以外は緩い部活だから、掛け持ちでも問題ないわ」
　物珍しそうに部室を見ている新入生たちにそう告げた時、美野梨はさゆり先生の存在に気が付いた。
　新入生に混じってもまったく違和感のなかったので気付くのが遅れてしまったのだ。
「あら？　新任の雛鶴先生？　見学ですか？」
「ええ、そうなんです。部活の顧問って何をするのか知りたくて……」
　人見知りらしく、声が小さくなっていくさゆり先生に、美野梨は困ったように小首を傾げる。
「うちは顧問の先生はいないんですけど……せっかく来てくださったのですし、ぜひ見て行ってください」
　美野梨は壁の方へ移動して、貼ってある大きな寝子島の地図を指さす。地図には色のついたシールが貼られていて、黒猫やブチ猫などの写真も添えられていた。
「これは寝子島の猫の生息マップよ。ここは猫の研究にはもってこいの島だから」
　じつは美野梨は猫と会話できるろっこんの持ち主なのだが、さすがにこの場で見せるわけにはいかない。なので「生物部に入部が決まったら面白いものを見せるわね」と仄めかせるにとどめる。
　その地図の下にはさりげなく猫鳴館の入居者募集のチラシも置いてあった。動物好きなら猫鳴館はもってこいだ。どんな動物を飼おうと受け入れてくれる懐の深さがあの古びた寮にはある。
　――話が逸れた。生物部の話に戻ろう。
　美野梨はマップを眺める先生の隣に立って、生物部の成り立ちについて説明した。
「生物部は、もともとあった部を復活させているんです。ですから立ち上げの際や、休部中の動物たちの預かりでは元顧問の先生には大きく尽力していただいたと聞いています」
　動物たちのことを思うと新入部員を何としても確保しなければという気持ちになる。
　どんなに頑張っても３年生はいずれ卒業なのだ。
　他の部と違って飼育当番の確保はまさに死活問題である。
「部長が生徒会で忙しい分、私たちがなんとかしないと」
「大丈夫ですよ！」
　さゆり先生が美野梨の手を力づよく握ってくる。
「どうしても困ったときは力になりますから！　ウサギさん、可愛いですし！」
「ありがとうございます。ところで先生は何部の顧問になられたんですか？」
「アイドル活動研究部です！」
「アイドル……ああ、昨日校内放送で流れていた……そういう世界もあるのね」
　自分には少し遠い世界の話のように思えたが、今度歌を聞きに行くのもいいかもしれない。

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