うごきだす春、部活動＆同好会｜リアクション

うごきだす春、部活動＆同好会

●バスケ部、新入部員を迎えて

「集合！」
　見学に来た雛鶴さゆり先生が体育館の扉に手をかけたのと同時、羽生碧南の声が響き渡った。
　各自ドリブルやシュートの練習中だった女子バスケ部の二、三年の部員たちが、一列に整列する。
　相対するように新入部員が並ぶ。今日は一年生を迎えてのはじめての練習だ。
　碧南は１年生と上級生の間に立って、まず１年生の方を向いて自己紹介をした。
「寝子島高校女子バスケ部キャプテン、３年の羽生です！」
　すでに新入生歓迎の際に互いに自己紹介をしているから知っているはずなのだが、それでも新入生たちは碧南が女バスのキャプテンであることを「信じられない」という顔で見ている。
　さもありなん、碧南はふんわりといつも微笑んでいるガーリーな少女なのだ。
　おそらく中学でのキャプテンは、男子顔負けの体つきで見るからに強そうな子だったのだろう。碧南だって身長だけは180cmという高身長だったりするが、一見して女バスのキャプテンというオーラが薄いのだ。
「２、３年生！　今日から１年生が練習に加わります。いろいろ教えてあげてね」
　上級生からハイッと返事が返ってくる。すっかり馴染んだメンバーだ。十を言わなくても分かってくれる。
　碧南は次に１年生たちに向き合う。
「１年生のみんな！　レギュラーの座は学年じゃなく、実力！　１年でも力のある子はスタメンになるチャンスがあるよ！　先輩の後ろ姿から学んで、超えるつもりで頑張ってください！」
　新入生たちからも、鈴のような声で返事が返ってくる。
　しかしその中にひとり、碧南を値踏みするような鋭い視線を送ってくるショートカットの少女がいた。
（確か――霧江愛といったかな）
　背丈は碧南とほぼ同じ。新入生の中では頭一つ飛び出している。
　負けん気の強さでも頭一つ飛び出していそうな感じだ。

　練習が始まり、基礎練習のあと試合形式の練習に移行する。
（うーん……例の愛ちゃんの視線が痛いなあ……）
　彼女は挑戦的な視線でずっとこちらを見てくる。自分の実力を試そうとしているようだ。
（しょうがない。受けて立とうじゃない）
　愛にボールが渡った。彼女のシューズがキュキュと鳴る。
　２年生を躱しパス。
　自分へのガードを外し、パスを受けるとゴール下まで素早いドリブル。
（パスのスピードやキレは自分と互角、でも……反応が遅いよ！）
　碧南は高くジャンプしてボールキャッチし、反撃に転じる。
　愛が食らい付いてくる。
　事実上二人だけの攻防戦だ。
（キャプテンとして舐められるわけにはいかないのよ！）
　手を伸ばして来た愛を肩で弾いて躱すと、３ポイントシュート！！
　ボールが過たずゴールネットを潜り抜けたところで笛が鳴る。
　碧南は流れてきた汗をぬぐい、肩で息をしつつこちらを睨んでいる愛に手を差し伸べた。
「はぁ、はぁ……いい動きするじゃない新入生。でも私の勝ちだね」
　愛は口の端を歪めて笑う。
「そんなこと言えるのは今だけですよ、先輩。だって私まだ１年ですもん。伸びしろ的には勝ってますから」
「口が減らないなあ……ま、いいけど。ぜひ私を超えてみてよ」
　挑発に乗るかな。うん、きっとこの子は乗ってくる。そして強くなる。

（わあ……キャプテンさん、後輩をその気にさせるの上手いですね……！）
　ここでも顧問には会えなかったが、キャプテンの碧南の振る舞いに学ぶところがあったらしいさゆり先生は、感心したようにメモを取っていた。

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