猫鳴館へいらっしゃい！｜リアクション

猫鳴館へいらっしゃい！

☆チラシ配り

　2年生の鈴野加代は、出来上がったばかりのチラシを受け取った。
「それじゃ、チラシ配りに行ってきます」
「あ、まうも案内に行くよ」
　ポニーテールを揺らし歩き出す加代の後を、まうが追いかける。
「公式な寮でないため猫鳴館の存続のためには力が必要です。存続のための一票になる寮生をゲットするのです」
　真面目で意志が強い加代はやる気満々だ。
「うん……場所は、どうする？」
　まうの問いに、計算と理詰めで物事を考える加代はすぐに答えた。
「今日は新入生説明会ですが、校門や目立つところでビラをまけば風紀委員に目をつけられる恐れがあります。学校近くで目立たない場所にしましょう」

　適当な場所を見つけると、さっそく加代はキリキリとチラシ配りを始めた。
「ねこなきかん？　そんな寮説明になかったけど、最近できたんですか？」
　チラシを見て首をかしげる新入生に説明する。
「ビョウメイカンです。歴史ある建物ですし、DIYや廃墟好きならたまらない寮になっています」
　東北の田舎出身の加代は、猫鳴館の寒さもそこまで苦にならない。
「廃墟って……それ、普通に住めるの？」
「住心地は人によりますね、住めば都とは言いますし、なにより改装とかしても誰も怒りませんし」
　潔癖な加代はさすがに住み心地がいいと勧誘することはできず、真面目に説明する。
　だが、新入生はチラシは受け取ったもののそそくさと立ち去ってしまった。
　残念がっている暇はない。
　加代は次の生徒にビラを渡す。
「猫鳴館です。見学だけでもいかがですか？」

「入る寮に迷うなら……猫鳴館、見てみる？」
　まうはなんとなく迷っていそうな子たちに声をかけた。
「桜花寮を見に行くつもりだったんですけど」
　そう答える生徒を、まうは勧誘する。
「寝子高で入れる寮の中では、一番安い……と思う、よ。桜花寮だとだめらしいけど、猫も一緒に暮らせる」
「猫……いいですね。ねえ、見に行かない？」
「えー？」　
　連れの子は戸惑っているが、新入生の女子の一人は興味を持ってくれたようだ。

　美野梨はねこったーに書き込みし、生物部の見学者にもさりげなくビラを渡していた。
「門限がなくペットも飼える自由な寮よ。普通の寮じゃ物足りない方、新しい世界が開けると思うわ」
「鶏飼ってるんですか……でも生物部にも鶏いるし、朝早く起こされそうですね」
　新入生男子は興味は示すものの、住んでみたいという気にはならないようだ。
「一度見学だけでも来てみない？」
　美野梨の勧めに、新入生は見学だけならと同意してくれた。

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