あなたの放課後｜リアクション

あなたの放課後

――同じ年の従兄弟――
　屋上から望める景色はそれはもうとても良い。
　春風の心地よさと、芽吹きはじめる新緑の香りが鼻腔をくすぐる。
　小さく動く生徒を見下ろすさまは、自身を何か特別な存在だと錯覚させる。
　龍人とヴィナは屋上のフェンスに背中を預けた。
　屋上には先ほどの３人組以外はいなかったようで、今は２人で貸しきり状態だった。
「ねえ、ヴィナ部活とかってもう決めた？」
　屋上に行く途中で買ったペットボトルの飲料を開けながら、龍人は聞いた。
「そういえば、まだ決めてないな」
　ヴィナはせっせと手荷物を広げていた手を止めた。
「せっかく高校にはいったんだ、何かやりたいとは思うな。青春を謳歌できるものがあればいいんだけど」
　言って、くすりと笑みを漏らした。
　浮かべた笑みを零したまま、作業を――同じように途中で買ったお菓子類を広げ始めた。
　緩やかな風が、空っぽになったビニル袋を攫おうとするが、龍人がそれを拾った。
　袋で遊びながら、
「園芸部とか、合唱部とかいいと思うんだけど」
「龍人は歌うの好きだもんなあ。でも園芸は家に帰ればできるだろう」
「確かそうだけど、学校でしかやれないのもあるんじゃないかなってね」
　それにと、龍人は続けて、
「家の手伝いもあるから、あまり部活動に専念できるとは限らないし」
　龍人の言いたいことは、ヴィナにも分かる。
　ヴィナも龍人の家に下宿し、手伝いをしているのだ。
　部活が家の手伝いを圧迫しないかと心配しているのだ。
「まあ、今日くらいのんびりしてもいいんじゃない？」
「それもそうだ」
　難しく考えても仕方ないことに至ったのだろうか、龍人はよっと立ち上がると屋上のフェンスに寄りかかる。
「んー、よし、たまには何も考えずに歌おう！」
「それは楽しみだ」
　茶化すようにヴィナは言うが、楽しみなのは本当だった。
　身内の贔屓目はあるだろうが、龍人の歌は聞いてて心地よくなる位に上手いと感じている。

『さくら舞う　それは出会いの季節～♪』

　澄み渡る龍人の声。
　ヴィナは目を閉じて、今日の疲れを取るようにその歌に聞き入る。
　そんな中、屋上の入り口が開くような物音がした。
　ヴィナがそちらに目を向けると、制服を着崩した女子生徒の姿があった。
　ばっちり目が合う。
「よかったら、一緒にどう？」
　そう声をかけてみたが、生徒はすぐさま身を引っ込ませた。

『あなたと出会う　運命の季節♪』

　静かに龍人の歌へ耳を傾けていたヴィナは、龍人が歌い終わると同時に、
「いつもながら、龍人は歌が上手いね」
　拍手交じりに褒めた。
「まあ、好きだしねー」
「龍人、そろそろ花壇のほう行ってみようか。もしかしたら園芸部の活動あってるかもしれないよ」
　照れたように笑う龍人にヴィナはそろそろここから退散しようかと提案する。
「ちょ、ヴィナ！　オレ、まだ歌ってたいんだけど！」
「外でも歌えるよ」
「確かにそうだけどさー……」
　渋々納得してくれたようで、龍人は唇を尖らせながら片づけを始めた。
「前々から思ってたけど、ヴィナの身長羨ましい」
「俺もそこまで身長高いって訳じゃないんだけど……」
「いーや、だって、俺はちっこい上に女顔だから、たまに女に間違われるし……」
　自分で言っていて凹んだらしい龍人。そういうところが原因なのだろうというのには、いつ気がつくのかヴィナにとって楽しみで仕方が無い。
「大体身長云々で人を見るのは下の下だと俺は思うよ。やっぱり人間性が重要だよ」
「……ヴィナって時々古臭いよね」
　心外な発言だったが、大方予想通りでもあった。
「身長もあって、中身も完璧！　それが一番だと思うから、俺は頑張って背を伸ばす！」
　そういって、折角片付けたお菓子類の入った袋に無造作に手を突っ込んで、龍人はお菓子を取り出した。
「だから、もっと食べるべきだな。うん」
「横に伸びてもしらないからな……」
　ヴィナは苦笑するしかなかった。

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