あなたの放課後｜リアクション

あなたの放課後

――始まりの一幕――
　今日一日の全日程が終了した証の鐘がなると、途端に校内がざわめきだした。
　ショートホームルームの時点から、飛び出したくなる気持ちを飲み込んでいた、風雲児轟は一目散に教室から姿を消した。
　人気の無いところを探していたところ、
「あ、風雲児君」
　轟は彩華紫乃愛に呼び止められた。
「おう、彩華じゃないか。どした？」
「いえ、これから一緒に帰りません？」
「すまねぇ、今日は寄るところがあってどうしても無理だ！　また今度な！」
　切羽詰っている様子がありありと分かる、轟の様子に、
「そうですか……。わかりました。お気をつけて」
　紫乃愛はそう言って、残念そうに表情を曇らせた。
　それに幾ばくかの罪悪感を覚えながら、轟はその場を後にした。

　紫乃愛は去る轟の後姿を思案気に眺めている。
　轟の姿が紫乃愛の視界から消えると、
「さて、私もいかないと……」
　確固たる信念に満ち満ちた様子で、紫乃愛もその場を後にしたのだった。

†――†――†
　課題をたくさん出された拓郎は、顧問のところに向かっていた。
　言伝なら部長でもいいのだろうが、そこは筋を通すべきだと思った。
　そんな拓郎の前に、こめかみを押さえて同じように職員室へと向かっている風宮悠の姿を見つけた。
「風宮さん……大丈夫、か？」
「ああ、志波さん……ですか。いえ、頭痛が起きて……ですね」
　それだけで、拓郎は彼女の言いたいことを理解した。
　同じ陸上部の彼女が部活中、派手に倒れてしまったことは目撃しているからだ。
「……自分が、一緒に伝えて、おくよ。自分も、今日は休む、し」
「すみません。たすかり……ます」
　悠は青い顔のまま拓郎にお礼を言う。
「保健室、まで送る？」
「それくらいは、大丈夫……です」
　悠は拓郎の申し出を断って、保健室の方へと向かった。
　その様子を少しばかり心配そうに見ていた拓郎。
　しかし、先にやるべきことを済ませてしまおうと考える。
　保健室で横になっていれば多少はよくなるだろうとも思ったからだ。

†――†――†
　空は澄み渡るほど蒼かった。
　屋上への出入り口、化学部の３人――アガサ･プレラチ、大田原いいな、緋王輝夜――は各々手に、実験器具のような、それでいて鍋のようにも見えるものを持っていた。
「ふむ、結果は９６℃、ですか」
　温度計に目をやりながら、アガサは一つ頷く。
「とりあえず、化学室まで持ち帰りましょうか」
「あがさ殿、はよう戻るのじゃ！　儂の実験結果は化学室でみたい！」
　いいなは、もう待ちきれんとばかりに、自分の鍋を抱えている。
「おーおー、いい感じになってるね！　たしか卵余ってたはずだな。後でいれてみっか」
　輝夜も満面の笑みで、自分の実験結果に頷いている。
「さて、では戻りましょう。実験のレポートを書かないといけませんからね」
　アガサが指揮を執り、他の二人を連れたっていく。

　化学部の三人とは入れ替わりに、二人の男子生徒が屋上へとやってきた。
「たまにはこうやってのんびり過ごすのもいいね」
　下月ヴィナが、従兄弟の下月ウェマー龍人にそう言った。
「今日は家の手伝いも無いからね」
　龍人もヴィナに同意した。
　屋上のフェンス越しから、寝子校の放課後の風景が一望できる。
　急いでいる人、部活に行く人、何か用事を頼まれている人。様々だ。
　ヴィナと龍人は、そんな様子を眺めながら、他愛の無い話を始めた。

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