猫鳴館の付喪神｜リアクション

猫鳴館の付喪神

　寝子ヶ浜海岸に喜矢武あいおの美声が響く。ツインテールと縦ロールが勢いよく弾んだ。踊りながら海に向かって伸びやかに歌う。
　通り掛かった親子連れが足を止めた。女の子が両手を振りながらぴょんぴょんと跳ね回る。幼いながらもあいおの真似をした。
　歌い終わると拍手が起こる。女の子は目を輝かせて夢中で掌を叩いた。
　あいおはくるりと回って小さなファンに微笑み掛ける。
「いっぱいの拍手をありがとう。またねぇ」
「うん、またね！」
　隣にいた母親が軽く頭を下げた。女の子と手を繋いで帰っていく。
「お昼はチャーハンがいい！」
　元気な声を耳にしたあいおは青い目を丸くした。
「バーベキューの日ですよぉ！」
　あいおはスカートを翻して走る。親子連れを追い抜いて斜面を一気に踏破した。
「買い物もしないとぉ！」
　キャットロードに駆け込み、目にした物を適当に買い込んだ。一息入れる間はなく、九夜山を目指した。
「あと少しですぅ」
　歩道を走り、右手に折れた。木々に覆われた坂道の先を二人組がのんびりと歩いていた。
「間にあったのですぅ」
　あいおは感動にも似た表情で駆け寄った。
「二人も参加者ですねぇ。僕もそうなんですよぉ」
「参加者？」
　猫館鳴が不思議そうな顔で振り返る。隣にいた楡宮遠海が付け加えた。
「バーベキューだね。それ用の食材を私も持ってきたよ」
「僕も少しだけど買ってきましたよぉ」
　あいおは提げていたビニール袋を掲げた。遠海は背負っていたリュックを二人に見せる。
　鳴は少し表情を曇らせた。
「あたしは何も用意してないんだけど、参加しても大丈夫なのかな」
「先立つ物がないのですねぇ。その苦しさ、切なさはよくわかりますよぉ」
　あいおは潤む瞳で何度も頷いた。
「心配しなくていいよ。皆がたくさん持ってくると思うし。私は色々な種類のソーセージとトウモロコシなんかを用意したよ」
「皆には悪いんだけど」
　鳴は頬を赤らめて言った。
　三人は会話を楽しみながら集まった面々と合流した。

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