猫鳴館の付喪神｜リアクション

猫鳴館の付喪神

　楡宮遠海はクラスメイトの一人から学校で誘いを受けた。日曜日に猫鳴館で歓迎パーティーが催されるという。自宅が鎌倉の為、少し迷うような態度を見せた。
「バーベキューをするよ」
「もちろん参加するね」
　満面の笑みで答えた。
　当日、遠海は早めに家を出た。定期券を使って寝子島シーサイドタウン駅で降りた。その足で駅ビルのmiaoに立ち寄る。定番のトウモロコシと各種のソーセージ、それとデザート枠でマシュマロを購入した。
　全てをリュックに収めると九夜山を目指す。見つけた轍に踏み込んで力強く歩いた。
「確か、この辺に」
　薄暗い中で立ち止まり、周囲に目を向ける。木々に視界を阻まれ、先がよく見えない。
「こっちかな」
　木の合間を抜ける。下草を踏んで先を急ぐ。なだらかな斜面に飽きたのか。適当に下って立ち止まる。
「うん、これは完全に迷ったね」
　語尾が震えた。表情が、やや強張る。
　その時、背後で小枝が折れるような音がした。遠海は目を剥いて振り返ると、茶色い作務衣を着た猫館鳴が弾むように歩いてきた。
「こんにちは」
「え、こんにちは。あの、あなたも迷った？」
「あたしは散歩の途中なんだけど。もしかして迷ったの？」
　逆に聞き返された。
「まあ、そうなるかな。猫鳴館に行きたかったんだけど」
「それなら案内できるよ。付いてきて」
「ありがとう。あなたは館に住んでいる人なのかな」
　背中に声を掛けると笑顔で振り向いた。
「館そのものって感じかな」
「そのものって……」
　くるりと背を向けると鳴は元気に腕を振って歩き出す。遠海は小首を傾げながら付いていった。

このページにイラストを設定する