承：Guida dal Mare Profondo

　――おっしゃあ！　いっけぇ！

　マモルソラが幻影をほんのり輝かせて叫べば、早速イワシの大群が冒険者たちを取り囲んでいた。
「来るわよ！　散開！！」
「おっけー！」「はいっ！」「任せてっ！」「しょーちぃ！」
　『銀の嵐』からキャスターを守らんと、羽生 碧南を始めとする重戦士たちが囲む中、飛び出す影あり。拳闘士と軽戦士の５人である。後から遅れて恵御納 夏朝が追いかける。
　自身から一定範囲内にいる複数の敵に連続攻撃できる『シーヴスラウンド』で恵御納 夏夜が、拳に雷を纏わせ剣状にして薙ぐ『サンダーブレイド』でスピカ・フォーツが突破口を開き、水流がイワシを押しやる。その正体は開幕早々『エンチャント：シルフィード』を発動させ敏捷性を上げた白 真白である。おまけにこのスキルは使用者の攻撃に風属性の追加ダメージを付与する。どうやら、それが原因で水流を生んだようだ。
「一番槍もらったよっ」
　尾びれを揺らし、攻撃を仕掛ける真白だが内心では夏夜とスピカの２人が偶然にもシンクロした動きによって『銀の嵐』を突破できた事が有難かった。
　真白の一撃が羅針盤に決まった途端にサメが姿を現す。悠然と泳ぐサメが冒険者を襲おうとするも、すかさずアシュリー・アンダーソンが側面から殴りつける。
（このサメにダメージが入るなら、積極的に排除したほうがいいだろう）
　噛みつこうとするサメを引き付けるアシュリーは不敵に笑い、技を見舞う。彼女には多くの敵にダメージを与えれば与えるほど自分にバフを付与できる『ランペイジ』というスキルがある。イワシの時も押しのけていた分、徐々にバフが高まるのを感じながらアシュリーは舞う。それを見上げたトワ・E・ライトフェロゥは歓声を上げる。
「Oh！　サメさん乗れるですかねー……」
　目を輝かせるトワの呟きはさておき、彼女にはジョブ関係なく使用できるBS解除スキルがある。
（とにかく、今は大人しく順番まちましょー）
　トワはしばしサメとアシュリーの一騎打ちをしばし見つめていた。……が、急に進路を変えてトワを狙う！
「わぁ？！」
「こっちよ！」
　すかさず前に出るReiがサメ相手に指をクイクイ動かして挑発する。サメがReiを敵と認識し牙を向ければアシュリーが攻撃をする。その度に、羅針盤が僅かに動くのが見えた。
「Shark攻撃するトー、羅針盤にダメージです？」
　トワが呟いた言葉に、アシュリーとReiの目が光った気がした。
「それならばっ……てりゃあぁぁぁ！！！」
　Reiはぐっ、と得物を握り締め雷属性攻撃『雷神の怒り』を叩きつける！　文字通り痺れる攻撃を喰らったサメは体を痙攣させている。そこをチャンスと睨んだアシュリーが連続攻撃を仕掛ければ、反撃できずサンドバック状態になる。
　大ダメージを受けたサメは身体の痺れが抜けたのか、一気に襲い掛かろうとしたがトワが前にでて短剣を突き出していた。
「今です！」
　トワの鋭い一突きを喰らい、サメは怯んでマモルソラの方へと逃げていく。
「一定ダメージを喰らうと逃げるのか……？」
「より大きなダメージを与えたほうがいいのかもしれないわ」
　アシュリーが悔しさを堪え、Reiもまたため息交じりに考察する。が、マモルソラの攻撃は止まらず再びサメが向かってくる。
「Oh！　こっちにくるデス？！」
　アシュリーは今度こそ逃がさない、と表情を引き締めた。

　一方、サメの対処を仲間に任せ碧南はスピカ、真白と共にマモルソラと対峙していた。極地的な激流で押し流されそうになる２人を碧南が庇った。
　同時に戦場一帯へと降りそそぐ珊瑚の欠片。軽戦士と拳闘士たちがフットワークで避ける中、魔導士と治癒士を守っていた重戦士たちもまた動き出した。
「開幕早々イワシの大群なんてねっ！　それでも頑張るわよ！」
　猛牛チックな鎧を纏った戌貝 二一はマモルソラの動きを用心深く観察しながらも、襲い掛かってくる珊瑚の雨から唯一の治癒士である夏朝を庇っていた。
　スキル『庇う』のお陰で二一自身のHPの減りも少なくなっている。だが、逆にMPは気を付けていかないとカツカツになるだろう、と気を引き締める。
「珊瑚がなんぼのもんじゃーいっ、てね」
　イワシの群れを迎え撃つタイミングで『ウォール・オブ・オブシディアン』を発動し防御力を高めていた黒兎 都。彼女は飛んできた珊瑚をフルスイングではじき返し、後衛組を守る。
　勿論魔導士たちも黙っていない。トワがはしゃぐ姿に「気をつけろよ」と思いながらも夜海霧 楓は電磁紋を設置していた。
（羅針盤の姿では、魔法攻撃のダメージが通りにくい。なら、今やるべきことは……）
　後衛組を狙ったサメを金属性の魔法で追い払う。ついでに近接する味方２，３人に防御力向上のバフを展開し、次に備える。
（少しなら持つだろうよ）
　と仲間の様子を見た楓は……。



　妙にどやっ、としている着ぐるみさんと目が合いそうになり逸らす。
　着ぐるみさんは、今回魔導士だ。見た目タコまみれウサギだが気にしてはいけない。だが、名状しがたい雰囲気を纏っているのは気のせいではないはずなのだ。
（如何にも水属性て感じにみえるが羅針盤で導き手）
　楓から齎されたバフの効果でほんのり金色の輝きを纏う着ぐるみさんは、考察を巡らせながらサメを鞭でペシペシと攻撃している。
（つまり船と見れば金属性？　ならば金生水、水生木、土剋水かな……）
　ちらり、と前を見れば、羅針盤状態のマモルソラから幻影が立ち上り、珊瑚や磁力を使った攻撃でもって拳闘士や軽戦士を相手取っている。
「色々と分からんけど、もーまーんたーい。やってみれば、なんとかなる～」
　そーゆーもんやろ？　と八代 拓哉が鉄扇を手に一回転すれば青白い光のエフェクトが走り味方全体の移動速度が上がったように思える。このスキル『神風』は移動速度と攻撃速度を上げる玄人好みの風属性魔法である。