【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月｜リアクション

【新年度】サクラサク、ひとつ大人になる四月

●初日ホームルーム・その１

　楡宮遠海は２年２組の教室で、無事進級したことをかみしめていた。
　新たなクラスでの初めてのホームルームだ。
　先んじて終えた始業式では、理事長はいなくなったのに相変らず校長先生はシトラス・ガムダン話が長くてうんざりだった。
（……教頭先生も変わったけど、誰だっけ？　黒島、黒川、黒部、黒沢、黒河内……そうじゃなくて、クロフォード、クロマティ、黒四ダム……）
　と連想して、さすがに最後のはもう人間じゃないだろ、と自己ツッコミ。
　まあいい。
（それはともかく、あっという間の１年だったなあ。今日はから２年生で、先輩とか呼ばれるんだよね。あまりピンとこないな）
　同じように思っている人はクラスの８割を超えていることだろう。
　今年の担任は大柴ツヤ子というオバチャン先生でどっしりと豪快に笑う人だ。

「かあちゃんだと思って何でも頼ってくださいな！　ガハハハッ」

　うん、思った通り豪快だ。
　先生に続きクラスメイトも自己紹介してゆく。話半分にぼんやりと（今日の学食、何食べようかな）と考えていた遠海だったが、そのうちに自分の番が来た。
「こんにちわ。楡宮遠海です」
　できるだけハキハキと自己紹介する。
「軽音部に所属してキーボードをやってます！　趣味は音楽と食べること。よろしくね！」
　一礼すると拍手が起こった。一番大きく拍手しているのは大柴先生だ。
「ガハハ！　音楽と食べることが趣味と言い切ったところが好きですよ。これからよろしく、楡宮さん」
　続いて学級委員を決めることになったのだが……。
「え、私を推薦？　ほかにいないし是非、って……私が学級委員？　こんなんでいいの？」

◇

　一方、２年６組では。
「愛猫萌々子です！　風紀委員やります！」
　周りが戸惑うくらいの勢いで、萌々子が手を挙げていた。
　担任の津止孝道先生がぴくりと眉を上げる。眼光が鋭すぎて一瞬責められているのかと思ったが、どうやら理由を言うよう求められていると気づき、萌々子はこほんと咳払いする。
「理由は……今の桜花寮の同室の人が風紀委員なんです」
　同室の人とは、昨年から風紀委員として上級生だろうが風紀を乱す者をビシバシ取り締まりまくっている笛吹ぴりりのことである。
「彼女とは去年はクラスも寮も違ったのですが、一生懸命に活動されている姿を見て私も学校生活に貢献できることがしたいと思いました」
　そこまでひと息に言って、津止先生を見つめ返す。
　お願いですからこれで納得してくれますように、と祈りながら。
　じつは他にも理由はある。先生やクラスメイトにはちょっと言えない理由だ。
　それは、萌々子の裏の顔である『ののこ様親衛隊』の活動や、ののこがモデルのキャラが活躍する「のののガール！！」シリーズを投稿する『あいびぃ』の活動に関係がある。
（以前空き教室でののこ様親衛隊の集会を開いていたら、笛吹さんに見つかって追いかけまわされました。隊長が私だとはバレていませんが危険です。もう一つの顔である投稿者あぃびぃも伏せなければいけません。バレンタインデーのようにうっかり原稿用紙をばら撒いたこともありますから……）
　風紀委員になれば、と萌々子は計算する。
　校内の見回りや持ち物検査日を予め知ることが出来るはず。
　そうすれば裏活動のあれやこれやを事前に隠しておくことができる。
　それに、フツウが壊れそうな事態に陥った時、風紀委員の特権で上手く動けるかもしれない。
　と、そこまで胸の内で算段して、萌々子はすこし自分を責めた。
（自分でも邪な理由が多すぎるとは思っています。でも笛吹さんみたいに、不正や迷惑行為を許さない、より良い学校生活の為とまっすぐに進む姿に憧れたのも本当のこと）
　だったら。
　やるしかない。
　萌々子は正々堂々と先生とクラスメイトに向かってお辞儀をした。
「私、一年間頑張りますので、みなさんよろしくお願いします！」
　その熱意にびっくりしていたクラスメイト達だったが、萌々子が頭を下げ続けているとぱち、ぱち、と疎らな拍手が起こり、徐々に大きくなって教室に広がった。

「意気込みは分かった。６組の風紀委員を君に任せよう」

　元の顔がスナイパーじみているので分かりにくいが、津止先生の口元が僅かに緩んでいる。委員へ立候補する生徒がいたことを嬉しく思っているようだ。萌々子は顔を上げ、頬を紅潮させて言った。
「はい！　頑張ります！」

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