【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　色のない、サイレント映画の一場面のよう。
　音は鳴らない。聞こえない。
　扉にかけた手を、もっていく場所がない。
　引いたところで開きはしないし、叩きつけたところで無為に終わるだけだ。だからといってだらりと下ろして、ため息をつくのだって陳腐に思えた。
　弥逢遊琳は動けないでいる。
　何秒もずっと、そのままでいる。
　ふとした拍子に、小さな手提げのバッグの内側から音がした。金属音。
　バッグにしまった金銀ふたつの缶が、擦れあってかすかな音を立てたのだった。
　音を合図にしたかのように、サイレント映画に音が戻り、色がついた。
　どこか遠くから鳥の鳴き声がした。薄墨のような空は雲一つない青へ、モノトーンの桜は色づいて風に揺れ、限りなく白にちかい緋色の花弁を落とす。
「やっぱり会えなかった、か」
　いちばん陳腐な展開になったかもしれない。
　だらりと手を下ろし、短い溜息をつく。
　――果たせなかった。由季也さんからの宿題を。
　あれからすごく時間が経ったし、アポもなにも取らなかったから、訪ねたお店が閉まっていたとしても『仕方ない』としか言えなわけで。
　店の扉に背を向け、帰路についた。
　川岸を歩く中、差した和傘をくるりと回してみる。
「会いたかった、かな」