【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　出された食事や菓子をほおばり、桜ジュースをかたむけて桜の幹にもたれる。
「いいですねえ……」　
　ここでようやく紫苑は思い出した。
「あ、私もお弁当あるんでした……」
　さくたち、そして参加者に呼びかける。
「おいしい料理を頂きましたし、皆さんも一緒に食べますか？」
　えいやと取り出すのは五段重箱、これだけでも規格外だがなんとこの一式がふたつある！　このとんでもない規模は、紫苑の通常一人前だったりする。
　萌はこの時点でかなり桜の一夜酒をいただいており、うたたねしかけていたものの、ご飯と聞いて飛び起きた。
「そうそうご飯といえばカレーカレー！　桜パウダーを使用した花見カレーの出番だよ！」
　よびかけてリンや紫苑、義弘と智瑜のところまで押しかけてカレーをよそって渡す。
「まあ食べてみて！　究極の春カレーだから☆」
　そして緊張の面持ちで、さくにもひと椀さしだした。
「桜の妖精さんに出すのは緊張する……でもこれが究極のカレーを求める会に属する者の定めっ！」
「さく、食べてみたいの」
　さく（このときは一人になっていた）はスプーンを取り、ぱくりとカレーを口にした。ぱくぱく、そのまま小さな椀をからっぽにする。
「ど……どうだったかな？　さくちゃんの味の評価が気になる～～」
　するとさくは無表情になり――。
　そこから一変、いい笑顔で両手を掲げ、頭上にマルを作ったのである。
「よかったああああ☆」

　先生、と智瑜は義弘に呼びかけた。
「大丈夫ですか？」
　義弘はくずれかけたあぐらをかいている。いつものスーツ姿だったがとうにスーツは脱いで脇に置き、ネクタイすら緩めていた。
「うん、大丈夫。カレー、うまい」
　片言になっている。
　勧めすぎたかな……？　あんまりお酒が強いほうじゃなさそう。
　でもこれはチャンスでもある。智瑜はにじりにじりと膝で彼ににじりよって、
「じゃあ先生、唐揚げ食べましょう。食べさせてあげますね。あーんって」
「あーんときたか……いつ以来かな……」
　ちょっと気になる発言もあったが、ここは聞き返さず智瑜は目的を継続することにした。
「はい、あ～ん」
　口元に持っていくと、ツバメのヒナみたいに素直に義弘は応じた。
「私にも……お願いしていいですか」
「うん、焼酎か……？」
　酌しようとする。
「義弘先生！　私未成年ですっ！」
「そうか、正直、すまんかった」
　義弘は頭を下げた。酔うとふにゃふにゃになる性質（たち）らしい。
「でも『桜の一夜酒』だったら、ノンアルコールらしいのでいただきたいです」
「わかった。『あ～ん』だな」
「いやそうじゃなくて」
　でもいいことを思いついた。
　両方やってもらおう。
　すなわち、一夜酒を注いでもらい、つぎに唐揚げを『あ～ん』でいただくのだ。
　幸せ……。
　智瑜は頬を染める。
　見上げた桜は、最初よりずっと咲いているように思った。
　入院中のあの子にも、この桜が見えてるかな？
　早く元気になれますように……。