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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
【お花見】逢ひ見んことは命なりけり
うっわー！ と鬼河内 萌は驚嘆の声を上げた。
ただもう、うっわー！
つけたすなら、すっごーい！ だろうか。
大きな声を出しているはずなのに、通りかかった人がいたとしてもたぶん、蚊の鳴くようにしか聞こえないだろうというところも『うっわー！』だ。
現在、萌は身長十センチ程度になっているからである。
萌だけじゃない。この宴会に参加している白沢 絢子も桐島 義弘も野菜原 ユウも、みんなみんな、萌と同程度の大きさに縮小しているのだった。
宴会場は寝子島病院の庭だ。大きな桜の樹に集まった参加者はめいめい、枝や根に腰を下ろしている。
立派な桜だが違和感があった。全島的に桜満開の寝子島だというのに、一帯だけ不思議と花の勢いは遅く、この木を含め庭の桜は、一様に五分咲きといった様相だったのだ。
「今回は魔女たちのしわざではないようだが」
サキリは桜を見上げる。
小さくなったせいか、宇宙全部が桜になったような錯覚を覚えた。だがそれだけに、花が少ないがゆえの寂しさもひとしおだ。
「うん。でも、この前のこと、あったから、ちょっと元気、ないみたいなの」
だから桜に元気を取り戻してあげてほしいの、と別の『さく』が言った。さくは一人ではない。たくさんいるのだ。全部名前が『さく』なのは少々ややこしい。
「だからみんなでお花見して、木のそばで楽しく食べてのんでしてほしいの。つられて桜も元気になるから」
なるほど、とうなずくサキリの口調は穏やかだ。
修羅の日々こそは裂切――サキリの宿命かもしれない。されど戦い続きの合間にも、小さな休息があっていい。
本日、サキリに刃を抜く必要はないだろう。自分の心の奥底にしまった『抜き身の刃』、濡れたように冷たいその刀身を。
萌は目を輝かせ、両手をぐっと握った姿勢でユウを見る。
「魔法みたいだよねえ……ねえ、ユウくん！」
「いや魔法だろ」
キッパリ断言するユウである。
「ていうか夢かもな」
にししっと笑って、おちょこに注がれた甘酒を飲み干す。
「にしてもこれうめー！ 桜の一夜漬けだっけ？」
「ちょっとちがうの。『桜の一夜酒（ひとよざけ）』なの」
と指摘してくれるのは、桜色のワンピースを着た桜の妖精、その名も『さく』なのだった。
さくの背中には桜の花びらそっくりな羽がある。しかし特段目立つわけではない。なぜって現在、さくと同サイズに縮んだ参加者はみな、おなじ羽が与えられ自在に飛ぶことができるようになっていたから。
この日、今年もカレー花見だよっ☆ と萌はユウをひっぱりだしていた。
「桜の下でカレー食べないと爆発するよ！ ユウくんが！」
「俺がか！」
ユウは抗議するが花見には異議なし、とついてきたのだが。なんの因果か自分たちを誘う声を耳にし、萌とともにこの病院の敷地を踏んだわけである。
「その後の流れはリンくんと同様ね♪ びゅーんと小さくなってこの場所へ招き入れられて」
「そうみたい……ですね」
羽奈瀬リンは目をぱちくりしている。
いきなりお花見？ しかも小さくなって？ すごいことになっている。
だがリンは悪い気はしないのだった。どうやら歓迎されているようだから。本日が初対面なのだが萌とユウにしたって、長年の知り合いみたいに自分を受け入れてくれている。どうやら顔を合わせて早々に、「カレー好き？」と問われ「は……はい」と即答したのが萌のお気に召したらしい。
「楽しくお花見をすごせば、この、ちょっぴり遅れている桜もしっかり満開になって、さくさんも安心して桜の樹に戻れるってことよね」
絢子先生が言った。すでに清酒を少々きこしめしており頬が赤い。
「うん」
さくが答えると、即座にユウが拳を振り上げた。
「ならピーポー、パーティしようぜ！ ウェ～イ！」
「パーティするピーポー……つまりパリピ、というものかしら」
と言う葉月のグラスに、
「そうみたい」
と夏朝が『桜の一夜酒』の瓶を向けた。
何十本と置かれている甘酒だ。さくのお手製だという。見た目は清酒のミニボトルにそっくりだったが、手にすると嘘みたいに軽い。手触りもガラスではなく陶器みたいだ。妖精界の物質で作られているのだろうか。
「ありがとう」
グラスを差し出し注いでもらいながら、
「でもあなた……たち？」
夏朝と、夏夜の顔を葉月は見比べる。ぐっと一口して、
「ふたり、双子の姉妹……だったかしら」
「もっちろん！」
夏朝は言い、
「もっと飲みます？」
と、夏夜は空になった葉月のグラスを眼で示した。
「……あれ？」
なんだか桜の樹の色が濃くなったような気がしてリンは見上げた。
桜の花が増えたような気がする。
間違いない、つぼみだったものが開き始めている。
ただもう、うっわー！
つけたすなら、すっごーい！ だろうか。
大きな声を出しているはずなのに、通りかかった人がいたとしてもたぶん、蚊の鳴くようにしか聞こえないだろうというところも『うっわー！』だ。
現在、萌は身長十センチ程度になっているからである。
萌だけじゃない。この宴会に参加している白沢 絢子も桐島 義弘も野菜原 ユウも、みんなみんな、萌と同程度の大きさに縮小しているのだった。
宴会場は寝子島病院の庭だ。大きな桜の樹に集まった参加者はめいめい、枝や根に腰を下ろしている。
立派な桜だが違和感があった。全島的に桜満開の寝子島だというのに、一帯だけ不思議と花の勢いは遅く、この木を含め庭の桜は、一様に五分咲きといった様相だったのだ。
「今回は魔女たちのしわざではないようだが」
サキリは桜を見上げる。
小さくなったせいか、宇宙全部が桜になったような錯覚を覚えた。だがそれだけに、花が少ないがゆえの寂しさもひとしおだ。
「うん。でも、この前のこと、あったから、ちょっと元気、ないみたいなの」
だから桜に元気を取り戻してあげてほしいの、と別の『さく』が言った。さくは一人ではない。たくさんいるのだ。全部名前が『さく』なのは少々ややこしい。
「だからみんなでお花見して、木のそばで楽しく食べてのんでしてほしいの。つられて桜も元気になるから」
なるほど、とうなずくサキリの口調は穏やかだ。
修羅の日々こそは裂切――サキリの宿命かもしれない。されど戦い続きの合間にも、小さな休息があっていい。
本日、サキリに刃を抜く必要はないだろう。自分の心の奥底にしまった『抜き身の刃』、濡れたように冷たいその刀身を。
萌は目を輝かせ、両手をぐっと握った姿勢でユウを見る。
「魔法みたいだよねえ……ねえ、ユウくん！」
「いや魔法だろ」
キッパリ断言するユウである。
「ていうか夢かもな」
にししっと笑って、おちょこに注がれた甘酒を飲み干す。
「にしてもこれうめー！ 桜の一夜漬けだっけ？」
「ちょっとちがうの。『桜の一夜酒（ひとよざけ）』なの」
と指摘してくれるのは、桜色のワンピースを着た桜の妖精、その名も『さく』なのだった。
さくの背中には桜の花びらそっくりな羽がある。しかし特段目立つわけではない。なぜって現在、さくと同サイズに縮んだ参加者はみな、おなじ羽が与えられ自在に飛ぶことができるようになっていたから。
この日、今年もカレー花見だよっ☆ と萌はユウをひっぱりだしていた。
「桜の下でカレー食べないと爆発するよ！ ユウくんが！」
「俺がか！」
ユウは抗議するが花見には異議なし、とついてきたのだが。なんの因果か自分たちを誘う声を耳にし、萌とともにこの病院の敷地を踏んだわけである。
「その後の流れはリンくんと同様ね♪ びゅーんと小さくなってこの場所へ招き入れられて」
「そうみたい……ですね」
羽奈瀬リンは目をぱちくりしている。
いきなりお花見？ しかも小さくなって？ すごいことになっている。
だがリンは悪い気はしないのだった。どうやら歓迎されているようだから。本日が初対面なのだが萌とユウにしたって、長年の知り合いみたいに自分を受け入れてくれている。どうやら顔を合わせて早々に、「カレー好き？」と問われ「は……はい」と即答したのが萌のお気に召したらしい。
「楽しくお花見をすごせば、この、ちょっぴり遅れている桜もしっかり満開になって、さくさんも安心して桜の樹に戻れるってことよね」
絢子先生が言った。すでに清酒を少々きこしめしており頬が赤い。
「うん」
さくが答えると、即座にユウが拳を振り上げた。
「ならピーポー、パーティしようぜ！ ウェ～イ！」
「パーティするピーポー……つまりパリピ、というものかしら」
と言う葉月のグラスに、
「そうみたい」
と夏朝が『桜の一夜酒』の瓶を向けた。
何十本と置かれている甘酒だ。さくのお手製だという。見た目は清酒のミニボトルにそっくりだったが、手にすると嘘みたいに軽い。手触りもガラスではなく陶器みたいだ。妖精界の物質で作られているのだろうか。
「ありがとう」
グラスを差し出し注いでもらいながら、
「でもあなた……たち？」
夏朝と、夏夜の顔を葉月は見比べる。ぐっと一口して、
「ふたり、双子の姉妹……だったかしら」
「もっちろん！」
夏朝は言い、
「もっと飲みます？」
と、夏夜は空になった葉月のグラスを眼で示した。
「……あれ？」
なんだか桜の樹の色が濃くなったような気がしてリンは見上げた。
桜の花が増えたような気がする。
間違いない、つぼみだったものが開き始めている。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2021年01月16日
- 参加申し込みの期限
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- 2021年01月23日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2021年01月23日 11時00分
