【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　肉を焼く。
　川原で焼く。
　バーベキューコンロで肉を焼く。
　志桜里が焼く。
　最近、志桜里は髪を切ってショートボブにした。

　原因は獅百合だ。よく彼女に姿をまねされるので、アイデンティティクライシスを感じたがゆえのイメージチェンジだった。
　これはこれで敗北感がと思う一方、いろいろと便利なのも事実だ。
　たとえば料理のとき、いちいち束ねたりアップにする必要がない。楽だ。
　バーベキューのときなんて特に――。
　と焼き網を意識してみて、ようやく志桜里は非常事態に気がついた。
「ちょっとシロ、私のお肉はどこに行ったのですかっ」
　見事に消失、行方不明となっていた。網のうえには人参と、ピーマンにカボチャしか存在しない。
　獅百合は回答する余裕がないようで、口をもごもごさせながらパックのほうを指さす。
　悪びれもせずっ！
　腹立てども腹減りのほうが上、志桜里はトングを手にして黙々と自分の肉を焼く。
　今度は肉をふたつのテリトリーにわけた。案の定、自分に近い側の肉をさらった獅百合が志桜里の側に箸をのばしてくるも、
「……ダメですよ。ここからは私の縄張りですからね」
　と払いのけた。領海侵犯ダメ、絶対。
　よしこれで安心して……私はよく焼いたほうが好みなんですよ。
　と思ったらまた侵犯してくるしっ！
　かくも美しく見苦しい争いのすえ、姉妹水入らずバーベキュー大会はなんとか終わった。
「お外でバーベキュー、楽しかったですねっ」
「私焼く人アナタ食べる人、という役割分担でなけれればもっとよかったですけどねっ」
「ふふふふふ……！　どうせなら『世話焼きお姉ちゃん＆甘えんぼ妹』と呼んでいただきたいですよ」
「呼びません。というかユニット名は決めたでしょう？」
「そうでした」
　せーの、とか声を合わせたわけではないのに、同時にこの言葉を口にした。
「『Greedy Cats』！」
　本日はお花見兼、ユニット結成式だったのだ。
「なぜか才能が分かれたようですからね、私たち二人に」
「そうですね、私がDJ、クロがぼやき」
「ぼやきじゃなくてMCですっ！」
　ぼやいてもいますけど、と苦笑いしながらも、マイクロフォン手にして志桜里は宣言する。
「二人分の稼ぎは私一人のバイトとMCじゃ無理、ってことで。勝手に生業を決めるようで悪いけど、一緒にゆるく天下、取ってもらいますよ、Scion？」
　威勢良く返すと思いきや、急に獅百合はめそめそしはじめた。
「稼ぎになるかも天下取れるかも、保証はないわよ。私だって才能だけで、知識はこれからなのにいきなり旗揚げだなんてまったくもって無理が過ぎるわ。いっそ古武術のほう継いだらいいじゃない、少しは考えってものを……」
　えっ、と志桜里はうろたえるも、たちまち獅百合は歯を見せた。
「バーカ、嘘ですよっ」
　腕組みしてかく告げるのである。
「やってやろうじゃありませんか。どうせ440Reが食えなきゃ私も食えないのは一緒ですからっ」
「そういうことっ」
　Greedy Catsという名の船はいま、荒波の真っ只中に漕ぎだした！