【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　文也がふらふら、匂いのする方に歩いていくと、はたしてバーベキュー大会が開かれていた。
　ご相伴にあずかってよろしいだろうか。
　それなりに人数がおる様子、二十人強といったところか。しれっと混ざっても気づかれないかも。誰かの知り合いの知り合いといった顔をして――。
　まあさすがにそれは実効性が低い、か。
　きびすをかえしかけた文也だが、あきらめる必要はなかった。
　あ。見知った顔。
　眼鏡をかけたチャーミングな女性だ。年の頃は自分とさほど変わるまい。これまで何度か顔を合わせたことがある。寝子島高校の先生だ。うん、久保田美和先生。
　がっつくものではないのでそろそろと、川原に下りて久保田先生に声を掛けた。
「いい匂いがすると思ったら、先生じゃないか」
「あら、古書喫茶の……」
「ええ、僕だよ。柏村」
「その節はどうもお世話になりました」
　社交辞令めいてはいるが、けっして冷たくない言い方だ。
「奇遇だね。お花見バーべキューというやつかな？」
　はい、と美和はにっこりと笑った。無防備な笑みとも言えようが、見る者を和ませる笑みというほうがよろしかろう。
「満開の桜とバーベキュー、魔の組み合わせだよね」
「ですよね、そうだ柏村さんも食べて行きません？　みんなで食材を持ち寄ったら余ってしまって……」
「え、小生もらっていいの？」
「どうぞ、どうぞ」
「わーい、じゃあ遠慮なくご相伴にあずからせてもらうよ」
　僥倖だった。美和が声をかけると、上下ともスポーツブランドのロゴが入ったジャージを着た若者、といういかにも体育教師みたいなの（※浅井幸太である）があらわれて、「どうぞ」と紙皿とコップ、それに割り箸を渡してくれた。
　みな、そろそろペースが落ちてきた様子だ。しかし食材はそれこそ山盛り、これだけ余っているというのだからもったいないことこのうえないのだ。
「いやあ、これはたまらない」
　バーベキューなんだから肉でしょ！　と文也はひょいひょいと肉をのせ焼いていく。野菜も少々。
　焼いた肉は自分で食べたり、その場にいる誰かの皿に盛ったり。
「ほらほら先生もどうぞどうぞ、若いんでしょまだまだ行けるよ！」
　せっかくなのでさっきの体育教師にも盛る。
「いやあ、私もう結構食べているんですが……」
「大丈夫、某（それがし）が焼いた肉だから美味しいよ～。はい、どんどん食たべたまえ若人たちよ」
　と、高校を出たばかり風の若者たちにも盛っていくのだ。
　途中で久保田先生は「このあと用事が」と席を外したが、なあに構うことはない。もう文也はなじんでいたから。この場に。
　みんなでお花見するっていいものだね。
　しみじみと文也は思った。
　この場所からだと桜は煙の向こう。けぶる桜というのも、考えようによっては風情ではある。
　うーん、これは無理にでもあいつ連れてくればよかったなあ……。
　なんて一瞬、甥のことも思ってみたりする。