【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　桜川の川べりを歩いていくと、世間はお花見シーズンだけあって、無数の料理の匂いが漂ってくる。
　おいしそう……。
　無目的に歩いているはずなのに、立ちのぼる香りに、遠海は体が引っ張られていることに気がついていた。
　とりわけ強くひきつけられたのは煙混じりの匂いだ。
　なんという引力か。
　肉の焼ける匂い、脳を急降下爆撃し胃に悲鳴を上げさせるようなかぐわしさ。
　バーベキューだ。アルファベットで記せばBBQ！
　いいなあ、お腹すいたなあ。
　遠海はわずかに前屈みになる。
　かなりの時間、足を棒にして歩き回ったせいで強烈な空腹である。脳内にはプラスチックの洗面器をへこませたときのような、ペコペコとした音がこだまするほどだった。。
　おすそ分けに預かろうとしたわけではない。ただ、どんな面々が肉焼きの宴をもよおしているのかのぞいてみたかった。
　近づいていくとやがて、
「あれっ？」
　と声があがった。
「ちょうどいいところに」
　相原まゆではないか。大きなバーベキュー串を聖剣のごとく手にしている。久保田美和も振り返った。
「まゆ先生！　美和ちゃん先生も！」
　まるで遠海を待っていたかのようだ。まゆから嬉しい声がかかった。
「食べて行かない？」
　即座に飛びつきたくなる提案だったが、ギリギリもちこたえて遠海は一応遠慮してみる。
「でも、いいんですか？」
　いいのいいの！　と美和が歓迎の意を示した。
「むしろ困ってたくらいだから。食材、なんかすごく余ってて」
　これでためらう必要は消えた。遠海の理性は月まで飛んでいく。
「ありがとうございます！　では遠慮なくいっただきまーす！！」
　言うが早いかまゆから渡されたジャンボ串にかぶりつく。
　焼きたて！　ジューシーでないはずがない。
　噛みごたえのあるビーフの塊だ。外側はカリカリに焼けているが焦げてはおらず、中身は熱々、しかもやわらかなミディアムレアだったのだ。
「どんどん食べてね」
　まゆは肉焼き係らしく、じゃんじゃん串を回転させている。ストックに困ることはなさそうだ。
　遠海がひとつたいらげるや否やたちまち、
「もうひとつどうぞ！」
　ネクストワンがまゆから手渡された。
　これも遠海は即座に胃に収める。
　遠海は外見からは想像もつかないが、規格外の胃袋を持つ驚異の大食い女子なのだった。
　だからいくら渡されても平気、どんどん次を求めて手を挙げる。欲求と本能のおもむくままに、食べまくっても大丈夫、本当に肉も野菜もウインナーも、焼きおにぎりからおひつのご飯まで、荷車に詰んで運びたいくらいストックされているからだ。
　遠海は食い散らかすのではなく、心底美味しそうに味わいつつ食べるので下品に見えることもない。いやむしろ、すごい量を消費しているとは誰も思うまい。
「……す、すごい」　
　遠海の食べっぷりを目の前で見ているまゆ以外は。
「もう一本もらっていいですか！」