【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　川原のバーベキュー会場には御巫時子の姿もある。
　桜川沿いを散歩していたら、久保田美和と相原まゆに声をかけられ参加させてもらったのだ。
「美和先生、まゆ先生、ありがとうございます」
　と両教師と話していたら、
「色々もらってきましたよ」
　五十嵐尚輝がいそいそと、大きな紙皿のバケットをもって戻ってきた。
「どうぞ、熱いうちに」
　たくさん入れてもらったらしく、肉に野菜がどんと詰まっている。いずれも豪快にバーベキューソースがかかっていたのもアウトドアらしくていい。
「お手間をかけてしまいました。さあどうぞ」
　さっそく菜箸で時子は、尚輝の皿に肉を乗せていく。でも、
「野菜もしっかり食べて下さいね」
　ちゃんとパプリカや茄子など、焼き野菜も忘れないのだ。
「トウモロコシが良い色ですよ。ニンジンはもう少ししたら食べごろです。甘くて美味しいですよ」
「あ、はい、どうもです……」
　尚輝はおとなしく従っている。もしかしたら野菜たっぷりは嫌なのかもしれないが、不平は口にしない。なんだか、給食当番がよそってくれるのを待っている小学校低学年の子のようだ。
　コンロでじっくりと焼いたものばかりなので、外が多少冷めても内側は熱をたもっている。
　いま時子が口にしたばかりのカボチャの小片にしたって、湯気がたつほどに熱かった。尚輝も同様らしい。
「うわ熱っ！」
　サツマイモをかじって、ひゃっと声をあげ取り落としそうになっていた。
「先生、大丈夫ですか」
「はは……大丈夫です。どうも粗忽（そこつ）でいけませんね」
「気をつけてくださいね。しっかりふーふーしたほうがいいですよ」
「……はい、ふーふーします」
　素直に返事する尚輝の様子がまた男の子みたいで、時子は思わず口元をほころばせた。
　時子は川べりの桜を見上げる。舞い降りかけた花びらはたちまち、バーベキューの熱にふきあげられて、再度空へとのぼっていく。
「外で皆で食べる食事もいいですね。桜も見ながらなんて贅沢な時間です」
　尚輝に呼びかけたのだが返事がない。
　気になって視線を落とすとまだ彼は、ふーふーと懸命に肉を吹いていた。
　
　食べてばかりでは、と時子は袖をまくり調理場に行った。
　といっても屋外、ちゃんとした調理スペースがあるわけではなく、クーラーボックスや段ボールを詰んだ即席の台所をつくり、三々五々集まって野菜や肉を切っているだけだった。
「食材、すごくたくさんありますね」
　今回の発起人のまゆが、『バーベキュー材料は自由にご持参下さい』と呼びかけたところ、多く野参加者たちは張り切ってうんとたくさん買ってきたかららしい。
　どうやら野菜が不足してきたようだ。
　では、と人参を手にする。皮を剥いて尖端を落とし、三等分して短冊切りに。包丁は新品だったのでよく切れた。トントンとまな板をリズミカルに打つ。
「僕もやります」
　と尚輝もやってみるのだが、なかなか時子のようにはうまくできない。
「大変だったら輪切りでもいいと思いますよ」
「な、なるほど……ええと、これなら僕にもできそうです」
　肩をならべ作業していると、楽しくて時間を忘れそうだ。