【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　ボートを返して川原に場所を見つけ、青と白、チェック模様のシートをひろげて腰を下ろした。
「じゃあ！　ええと、お待ちかねのお弁当ですっ」
　今度こそ、ちゃんとしたやつ、ですよっ、と付け足しておく。
　いそいそと弁当箱を開けていく。小分けにしてきた。開けるたびにサプライズだ。
　ごろっと鮭や梅干しのおにぎりに、だし巻き卵。時雨煮とごま和えと、花型のにんじん、唐揚げもたくさん作ってきた。
「クルトさんは好き嫌いありませんか？　弁当のおかずで」　
「特に好き嫌いはないが……まぁ和食の方が好きだ」
　弁当のおかずか、クルトは懐かしいと言った。
「前に花見をした時も、和穂ちゃんの弁当を食べさせてもらったな」
「なにか思い出しました？」
「ああ、あのときの卵焼きとかが、思い浮かんでな」
　あのときよりは上達したと想いますが、と前置きして和穂は恐縮したようにさしだした。
「では、どうぞ」
　いただきます、とちゃんと断ってからクルトはおにぎりに手を伸ばした。
「美味い。なんだか心が落ち着く味だ」
「えへへ、そう言ってもらえて光栄ですっ」
　でも、と和穂は続けた。
「なんというか、地味なメニューかと思います。今年も。ありきたりのものばっかりで……」
　そんなことはない、とクルトは首を振った。
「俺は和穂ちゃんらしくて好きだよ。家庭的で、温かい感じがするから」
　これは不意打ち！　心臓を射貫かれた気持ちで和穂は卒倒しそうになった。
　ど……どうしよう。なんだか、そのまんまの私を……好きって、言ってもらえてるみたいで、すごく嬉しい……！
　がんばったかいがあった、と和穂は我が身を抱きしめたい気持ちだった。
　食事の時間が終わった。魔法瓶の紅茶をかたむけ、膝を崩して座っていると、ふわっとあくびが和穂の口からこぼれてしまった。
「う、すみません、恥ずかしいです……」
　しまった、張り切って早起きしたせいかな。
　お腹がいっぱいになったせいかも……。
　いや、きっと両方……。
　クルトはほほえみを返し、そっと片腕で彼女を引き寄せた。
「……少し、休んで行こうか。そのまま、まどろんでくれていい」
　近い近い、距離が近い。
　うとうと気分はたちまち和穂から消えさった。見上げればクルトの綺麗な肌、美しい目、黄金のうぶげすら息がかかるほどの資金距離だ。
　まばゆくて目がくらみそう……見ていられないっ。
　またも顔を真っ赤にして目を閉じる。
「ありがとうございます……じゃあ、ちょっとだけ……」
　とは言ったものの和穂の心臓は、激しいビートを刻むばかりなのだった。
「なに、この気候なら風邪を引く心配も少ないだろう」
　やはりクルトは、ちょっとズレたことを言っている。
　でも、それがクルトさんらしいです。
　お言葉に甘えることにしたい。
　ほんの少しでもいいから。
　寄せる彼の肩の暖かさと、かずかな鼓動が和穂に伝わってくる。
　……ああ、なんてしあわせ。
　許されるのなら、ずっとこうしていたいと和穂は願う。