【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　せっかくイギリス話が出たので、蒼留人はマーガレットに問いかけた。
「そういやイギリスでも花見ってあるのか？」
「イングランドにも桜はありますけど……花見をしているという話は、少なくとも私は聞いたことがないですね。日本の桜とは品種が違っていて、寒い時期から咲く上に、咲いている期間もずっと長いんです」
「なるほど、桜が春の風物詩ってわけじゃないんだ」　
「ええ、少なくとも桜の下でシートを広げてお弁当食べたりするのは日本人だけじゃないでしょうか？」
　イギリス（とりわけイングランド）人も野外バーベキューは好きだ。夏ともなれば毎日のように、どこかの庭でガーデンパーティが開かれている。けれど『花見』となると日本独自の文化となろう。

「まぁ、でも私は花見好きですよ。日本育ちですからね」
「……なるほど。でも桜は短い期間に散るのが日本的というか、綺麗だと思うし……やはり日本に生まれてよかったな」
「綺麗にまとめたね」
　と美和が言い、いいじゃないとまゆもうなずいた。　
　先生たちも花くらい綺麗ですよ――そんな気の利いた台詞が蒼留人の頭に浮かんだものの、さすがに恥ずかしくて口に出せない。
「ところで、食べ終わったらどうする？」
「そうですね、片付けを手伝ったら……」
　マーガレットの視線の先に、手こぎのボートが見えた。
「ボートはさすがにご遠慮いたしますわ」
「たしかに、食後にボートを漕ぐのはきついか。乗るなら食前にすべきだったな」　
　だったら、と言いかけたところで蒼留人の視線はもう少し先、悠然と流れる屋形船に向かった。
「屋形船か……いいな」
　遊覧船みたいにたくさんの観光客とともに、船にゆられる自分を蒼留人は想像していた。
「屋形船は……ま、またの機会に」
　うすく障子を開けただけの畳敷き、正座したままならんで蒼留人とふたりきりで、川面を眺める自分をマーガレットは想像していた。
「そうか。まあ、屋形船は学生には物入りだしな……」
　蒼留人とマーガレットの想像のギャップは、幸か不幸か埋まらぬままとなった。