【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

「でも、ちゃんと事前に言ったとおり」
　茉奈は水上桜を上から下まで検分してから言った。
「それなりにきっちりおしゃれしてきたじゃない。そこはよろしい」
　本日、桜が春物のニットなどで決めて、いくつか自作のアクセを身につけて来たことを指しているようだ。
「そう？　あんまり意識しなかったけど」

　桜はここで茉奈の意図に気がついた。
　茉奈、性懲りもなく『お花見で彼氏ゲット作戦』なんて考えてるな――。
『いや私、別に彼氏とか欲しいわけじゃないから』
　と言いかけたがやめた。またぞろ情熱とか魂とか言われても当惑するだけだ。かわりに、自作のアクセを誉められたタイミングで、
「じゃあひとつあげるね。お守りとして使って」
　と、レジン細工のヘアアクセを手渡した。透き通る水色と桜色のデザイン、川辺に咲く桜というイメージで作ったものだ。
「え？　これマジくれるの！？　サンキュ」
　お守りかぁ、と茉奈はつぶやいた。
「これで運気アップしたかな！？　目指せ恋の出会い！　こういうお花見みたいな状況こそ出会いのチャンスはあるのよっ！」
「そうね。そうだといいね……」
　桜にはこう言うほかないのだった。ため息が出る。
　たしか茉奈、夏にもクリスマスにも、大晦日やお正月にもそんなこと言ってたよね。
　ここでふたりは香ばしい匂いをかいだ。
　見れば川原でバーベキューが開かれているようだ。寝子島高校の教師や生徒が多数入り交じっている。
「あれ？　バーベキューやってない？　行こうよ」
「ほほう、バーベキューで胃袋もガードもゆるくなった男子をゲットというわけですな！？」
「またそういう方向に持っていく……あのね、そういう催しじゃないと思うよ」
　桜はたしなめたのだが茉奈が聞いているはずもなかった。
　まもなくバーベキュー大会に合流し、あっちの男子こっちの先輩と茉奈は猛烈に愛嬌を振りまくったのだが、いっそ清々しいくらいの空振りに終わったということだけ記しておきたい。
　小一時間ののち、桜は茉奈のやけ食いに付き合う羽目になった。
「まあまあ……そんな気落ちしなくても。あ、肉焼けたよ。食べる？」