【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　桜川、寝子島の桜川だ。
　桜吹雪はやむことがない。やわらかな花弁が水面を、緋色のじゅうたんのように埋めている。
　今年はひとりじゃないね。
　青山絢は振り返った。

　昨年、お花見の季節に絢はひとりの花見をすごし、ついには春めいた気分のおもむくままに一人芝居を演じたものだった。
　いい思い出でもあるが、どこかもの悲しいものがあったのも事実だ。
　しかし今年はちがう。絢の視線の先には水谷真優理がいる。
「久しぶりに休みが取れたなあ」
　うーんと伸びをするその動き、あるいは、
「え？　どうしたの絢ちゃん？　なにかついてる？　私の顔？」

　花びらかしらと言って髪を撫でつけるその仕草、いずれも絵になる素敵な従姉妹が。
「ううん別に」
　と首を振り、絢は川面へと駆け出した。
「見て真優理さん、すごく綺麗だよ」

　川辺の土手にいい場所を見つけた。川を眼下に桜を頭上に、木陰にもなっているおあつらえ向きのスペースだ。レジャーシートを広げて座る。
「もうね、絢ちゃんとお花見ができるというのが嬉しすぎてね」
　いそいそと真優理は持参の包みをとく。
　中身は重箱だ。
「がんばっちゃった、お弁当」
　これがもう、豪華なんていうものではなかった。三段重箱、主食におかず、サラダにフルーツ、フルコースでどうぞといった様相。
　一段目、主食おにぎりはカラフルに三色、枝豆ごはんにゆかりごはん、さらには筍ごはんのおにぎりだ。
　二段目はおかず、ザンンギと呼ばれる味付けからあげに、ミートボールや白身魚のフライ、ふわふわ玉子焼きにはチーズと海苔が織り込まれていて、ウインナーはかわいいタコさんだ。
　そして三段目こちらが野菜と果物、ポテトサラダにかぼちゃサラダ、ごぼうをあえたきんぴらに、フルーツもたっぷりイチゴとキウイ、リンゴはちゃんとウサギさん型に切ってある。
　真優理の勤務先の特注品かなにかかと思うかもしれないが絢は知っている。すべて彼女が作り上げたものだ。冷食なんて当然ないし、食材はすべてスーパーではなくひとつひとつ、商店街の専門店で吟味したものだという。
　これ『がんばっちゃった』程度のレベルだろうか。鳥肌が立つくらいの完成度で、絢からすれば気合いが入りすぎという印象、実際メインのおかずの大半は、前夜から仕込みをしていた。
「真優理さん……力作すぎて箸をつけるのがもったいないよ」
　いくら手伝うと絢が言っても、真優理は「いいのいいの」と固辞してすべて単独で作り上げたのだ。
「遠慮は禁物よ、たんと召し上がれ」
「い……いただきます」
　真優理の情熱がちょっと、恐いくらいの絢である。