【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　待ちに待ったお花見シーズン到来！
　高梨彩葉は当日朝、早起きして寮の厨房に入った。先週のうちに借りる話はついている。
　お花見の早朝に厨房入りとくれば、想定される内容はたったひとつだ。
　桜といえばお花見！　お花見といえばお弁当だよね！
　さあ無人の厨房で腕によりをかけて……と入ってみたら。
　うわ、みんな考えること同じだね。
　苦笑してしまった。厨房は朝のラッシュアワーさながらの状況だったのだ。たくさんの寮生が作業中である。もちろん花見弁当の。
　湯気を上げる鍋に蒸し器、濃霧が発生している。フライを揚げる音がまるで集中豪雨、包丁が立てる音も駅階段の雑踏のよう。何時に起きたのかすでに、弁当箱に詰める作業が最終段階に入っている人もいた。
　でも臆してはいられない。
　腕まくりして彩葉は厨房に入っていく。
　兄貴がいなくても美味しいお弁当を作るぞー！
　持参の計量カップにレシピ本、さっと広げて作業場所を確保する。
　終わったときには、もう出発時間ぎりぎりだった。

『今年も行こうよ、お花見！』
　数日前、彩葉から誘いのNYAINメッセージが届いたとき、光の速さで志波拓郎は返事したのだ。
『行く、行きたい！』
　シンプルにして迷いのないレスだった。
　送信が終了してからやっと、炭酸飲料を一気飲みしたみたいに感慨が押し寄せてくる。
　そっか、もう一年か……。
　早いものだ。
　去年のお花見は神社だった。今年はどこへ行こう。幸いにして寝子島は、島がまるごとお花見スポットになったかのような状況だ。どこにだって行っていいしどこに行くべきか迷う。
　そうだと思いたち、拓郎はまたスマートフォンを手にとった。
『また彩葉さんのお弁当たべたい……！
　自分も、またデザートつくるから……！』
　送信ボタン。
　どこに行くことになっても、当日の場所取りは自分がするよと心に決めた。
　場所だけじゃない、他にも決めておくべきことはいっぱいだ。
　その最たるものはデザートだろう。
　なに作ろう。
　去年はカップケーキだったし、うーん。
　そういえば、お袋が作ってたアレ…確か……。
　

　絵に描いたようなお花見日和、待ち合わせ場所は橋の欄干、息せき切らせたどりついて、彩葉はうわあと声をもらした。
　ラッシュアワー、アゲイン。
　桜川でお花見するには絶好の待ち合わせ場所のせいか、ここも人でいっぱいなのだ。結構というかかなりの人出だ。
　桜の見どころだからなあ。天気も最高だし。
　拓郎は、っと……。
　しかし心配無用、拓郎のほうが見つけてくれた。
「彩葉さん、ここだよ！」
　おーいと手を左右に振った。
　ダッフルコートに七分丈のパンツ、背が高いからよく目立つ。