【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　桜の舞う並木道を抜け、星ヶ丘のオープンカフェへ。
　ちょうど空いた席に腰を下ろし、熱いカフェオレに唇をつける。
　いい景色だ。舞い散る風に運ばれて花弁がときおり、テーブルの上に舞い降りる。
「それでですね」
　ケーキが半分ほど片付いたところで、伊賀解理は身を乗り出すようにして言った。
「おいでいただいたのは他でもありません。本日はご報告申し上げようと思って」
「気合い入ってるね」
　どことなく余裕ある風にこたえるのは北風貴子、本日はブルージーンのパンツルックで、春ニットとあわせ小憎らしくなるほど『女子大生』している。いわゆるナチュラルメイクで整えているが、このナチュラル感を出すのにはそれなりに手間暇テクニックをかけていることはまちがいあるまい。
「そりゃあもう！　僕が寝子島に残れるかどうかの瀬戸際ですから！」
　と言い切っておきながらも『もしかして』と解理は内心不安にもなっていた。
　こうやって舞い上がってるの、僕だけかもな――。
　自分はとかえりみると、くたびれてきた赤いダッフルコートにチェック地のスカートで、野暮ったいとまではいかなくてもいささか冬の名残りのある服装だ。そこがJK（この言葉は大嫌いだが便宜上つかう）らしくていいじゃないかと言われそうではあるが、一年ほど前からお洒落女子大生にランクアップした彼女と比べると、子どもっぽいところがあるのは否めない。
　ひょっとしたら貴子さんにとってはどうでもいいことじゃ……。
　いやそんなことない、こうやって話を聞きに来てくれてるんだから。
　でもお姉さんとして、微笑ましく見守っている、という立場なのかもしれない。
　自分にも関係あること、と貴子さんが少しでも思ってくれていたら嬉しいんだけど。
　という心の迷いが生じたか、
「そ、それで」
　いささか解理が口ごもったのを貴子は見逃さなかった。
「もしかして、悪いしらせ？」
　眉がぴくりと動く。いつも姿勢のいい貴子の姿勢に乱れが見えた。
「まさか……！」
　声も調子が異なっている。
　そうか貴子さん、きっと最良の展開だと信じてたから余裕げに見えただけなんだ。
　解理は安堵を覚えていた。貴子が動揺するところを見て安心するというのも、どうにも倒錯的かもしれないけれど。　
「あ、いや、諸手あげてバンザイできるような展開じゃない、っていうだけで、不幸のズンドコではないと思います」
「もう、おどかさないでよ」
　貴子はチェアの上でため息をつく。
「それでどうなったの？　聞かせて、伊賀さん」
　貴子の頬に赤みがさしている。それはきっと、カフェオレが熱いせいだけではないだろう。
「はい。実はかくかくしかじかで……」
「なるほどそういうわけだったの……って、いやその『カクカクシカジカ』の中身を知りたいわけだから」
「漫画みたいにはいきませんか」
「そりゃそうでしょ」
　貴子のノリツッコミが妙に新鮮だった。
　このやりとりでちょっと和んで、貴子も解理も目元をゆるめる。
「それで？」
「冬に帰省して両親と話しました。結論から言うと」
　一拍おいてから続ける。
「説得は成功しました」
　