【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

「きみにも、こういう話があるのか？」
　攻守交替といったところか、朱真は美姫につづきをせがんだ。
　今度は美姫が頬を染める番、桜に負けない色合いで紅潮しつつ明かす。

　
「ひと月前のバレンタインデー、なんだけど」
「期せずしてわたしと同じバレンタイン話だな」
「はい、先輩を呼び出していた時、本命チョコにお手紙を添えて渡せたんです。言葉で告白するまでの勇気はなかったから……」
「興味深いな。想いを文にしたためたということか」
「そうなんです。古風すぎないかな？」
「なんの、トラディショナルな手段であろう。長年つづいている手法だというのは、それが有効だからだ」
「それでどうなった」
　朱真が尋ねると、ますます美姫は照れつつ言った。
「それから一ヶ月ほどして、わりと唐突な話だったんですけどね、その先輩にデート……水族館に誘われまして。ホワイトデーに」
「急で済まないんだが、3月14日って空いているかい？」
　という前振りらしい前振りもないダイレクトな誘いだったが、それが彼らしくてむしろ好印象だった。
「その先を聞かずにはおれんな」
「先輩から人生で一番素敵なお返しをもらえました」
「おお」
「水族館の澄んだ景色に満ちた中で、告白されたの、想いが通じ合ったみたいで、魔法みたいな時間だったなあ……」
　思い返すだけで胸がいっぱいになりそうだ。
　水族館から白いミサンガをペアでもらった。
　美姫の左手首、時計の上にゆわえられているミサンガは彼が結んでくれたものだ。いまも彼の手首には、美姫がくくりつけたミサンガがあることだろう。いわば一対の白い絆である。
　そして美姫は先輩からさらに、シルバーチェーンのブレスレットをもらったのだった。チョコのお返しであり、手紙の返事としての気持ちを込めたものだ。
「チョコレートを渡してから、ほとんど先輩とは会えなかったし、もしかしたら、と悪い想像もしてたんだけど……私のこと、考えてくれていたんだと知って、嬉しくて涙が出ちゃった」
「そんなことがあったのか、おめでとう」
　朱真は祝福を告げた。
「ということで、私は先輩と、この春からお付き合いしています。私にも春が、来ました」
「ロマンティックな話があるものだね。心から嬉しく思う」
　こんなに嬉しいことがあろうか、と朱真は思う。
　季節は春。そして朱真と美姫はそろって、人生の春のただなかにいるのだ。
　やがて並木道は出口にさしかかる。
　そういえば、と美姫が言った。
「六弁の桜の花を覚えてる？　朱真ちゃんが一年前に話した」
「ああ。六枚目の花びらを手に入れれば、一度だけあらゆる願いごとがかなうというやつだな」
「見つかった？」
「いや」
　だがもう、と朱真はまぶしそうな目をした。桜並木から出たのだ。
「わたしには必要なさそうだよ。幸せだからな。……まあ、普通の恋愛とはちがう形だろうけれど」
「私にも必要なさそうだね。願いならかなったから」
　満一年目の友人同士は笑い合った。　