【お花見】逢ひ見んことは命なりけり｜リアクション

【お花見】逢ひ見んことは命なりけり

　数えてみればもう三度目。
　でも三度目であっても色あせない。三度目でもやはりときめく。
　本日城山水樹は、水樹の同業者にして友人の檜原友美と、その彼氏こと高丘大地との三度目のWデートを楽しむ予定だ。
　列車が止まった。
「晴れたね」
「うん、晴れた」
　言い合いながら水樹は、友美と電車のドア前に立つ。
　水樹は前日まで、都内のスタジオでフォトセッションがあった。専属モデルを務める『STeLLA GIRLS』誌の表紙写真だ。なかなか手間取ったものの最終的には、自信作といえるくらいいい表情をパッケージできたと思う。
　夜はそのまま都内の友美の家に泊まり、今朝、そろって寝子島へ渡ったのである。
　ぷしゅ、と音を立て扉がひらいた。
　青い空と緑、そして桜でいっぱいの寝子島が水樹を迎えてくれる。
「もう二年も前かあ」
　唐突に友美が言った。
「なにが？」
「わかってるでしょ？　水樹がうちに泊まって、べろべろになって絡んできたのが二年前」
「だっかかな」
「男に二股かけられてたーって暴れて……」
「詳細はちがうけど……まあ、そんなこともあったよね」
　友美の言いたいことはわかっている。
　でもなにもいま、この話をしなくても！
　駅のホームから手を振った。改札のむこうには、大地、そしてヒュー・ヒューバートの姿があった。手を振りかえしてくれる。
「あの夜はまさか、あんなことになっちゃうとはねえ」
「そっちだって乗り気だったでしょ」
　顔から火が出そう。
　思い出すだに恥ずかしい反面、胸の芯が熱くなるような体験だったのも事実だ。もちろんヒューとの交わりは最良だが、友美との交歓も、それはそれで忘れ得ぬものがあった。
　果たして昨夜もつい、危ない雰囲気になりかけたものである。なんとか踏みとどまったがブレーキはかなり緩い状態だった。やはり酒はよくないと思う。とくに友美とふたりきりの酒は。
「まあでも、落ち着いてよかったよ。水樹が」
「友美もね」
　ふふっと秘密めいた笑みを交換して手をつなぐ。
　くすぐったいな。
　彼氏たちと合流するまでこうしていよう。
　
「水樹、どうだった撮影は？」
　ヒューが水樹をハグした。しっかり両腕で抱き寄せる。彼女の存在が幻ではないと、確かめようとしているかのように。
「うまくいったよ。時間がおして疲れたけど」
　水樹は腕を彼の背中にまわす。鍵でもかけるように両手を結んだ。
「よかった。書店に並ぶのが楽しみだよ」
　ヒューが水樹と会うのは、この前の誕生日以来なので二週間ぶりになるだろうか。わずか十四日とはいえ長く感じたし、その間、水樹のことを考えない日はなかった。
　どちらからということもなく離れ、両腕をつないで向かい合う。
　互いの顔を見る。
　同じ身長だから目の高さも同じ。ぴったりとまなざしが合致した。
「元気そうだね」
「うん、ヒューも」
　それきり言葉を失った。
　僕の水樹――誰よりも綺麗だ。
　ヒューの頬が熱くなる。交際しはじめて二年、二年も経つのにまだ、出逢ったときとかわらないドキドキを覚えるのはなぜだろう。
　水樹も同じ気持ちでいてくれればいいな。
「いつまで見つめ合ってるの～？」
　横合いから友美に声をかけられ、「あっ」とヒューも水樹も同時に声を出した。
「ああ、ごめんごめんつい」
　さすがに気恥ずかしくなりヒューはしどろもどろに言うのだが、水樹の照れ隠しはもっとパワフルだった。
「人の恋路をそんなふうにからかうもんじゃないの！
　ガルルと牙をむきそうな言い方、これには一同笑ってしまった。
　水樹らしいな。
　彼女はきっと、生きることを全力で楽しんでいるんだ。
　微笑ましく思うと同時に、自分もそうありたいとヒューは願った。